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属州の芽


 デザント王国の歴史は侵略によって紡がれている。

 彼の国は優れた魔法文明を持ち、周辺国を併呑しながらその版図を広げていった。

 デザントはその国内の地域を三つの区分によって分けている。


 まず一つ目は王国区、これは元来デザントであった地域である。

 領都デザントリアから四方へと伸びている区域だが、大きさ自体はそれほどでもない。

 ここに元から住んでいた民は王国民とされ、国民権と呼ばれる各種免税特権や施しの麦を受ける権利を持つ。

 国民権を持つ限り、人は飢えずに生きることができる。


 続いて二つ目は同盟区、これは元来デザントと仲が良かった地域を指す。

 デザント王国の周囲に飛び飛びになっている場所が多く、デザント王国の中でもリンブルやガルシア連邦に近い場所にはあまり存在していない。


 それはこの同盟区が、元はこのユグド大陸における国家間戦争の過程で、デザントが作ってきた同盟に由来しているからである。

 デザントは地理上、周囲に自分よりも大きないくつもの国があった。

 デザントはそれらの国と時に組み、時に争ってきた。


 同盟区はその中でも、デザントと争わずに組むか下ることを選んだ地域の集まりと言える。 同盟区に住まう人は、制限付き国民権を付与される。

 免税特権等はほとんどないが、最低限度の生活だけは保障される。

 同盟区に住む人間に、デザントに否定的な人間はあまり多くはない。



 そして三つ目が、属州区である。

 これはデザントと戦い下されるか、デザントが同盟区として遇する必要がないと決めた弱小国や地域の成れの果てだ。


 属州に暮らす属州民には国民権はなく、彼らは二等臣民として各種権利を持たない。

 徴兵されても仕事に就いても、彼らは安い賃金で扱き使われることが多い。

 生活の保障もなく、彼らが国民権を持つには三十年以上の軍属か国家への貢献が必要だった。


 属州民は、常にデザントに対する隔意を抱えている。

 本来有った文化を破壊され、デザント式の生活を強制される。

 『七師』を始めとした強大な戦力を持つデザントに強引に頭を押さえられている状況に、満足している属州はほとんど存在しない……。







「ふむ……では未だ時は満ちてはいないか」


 暗がりに一人、部下の報告を聞き腕を組んでいる男がいる。

 その顔には横一文字に大きな傷痕が残っており、その身長は優に二メートルを超えている。 鋼のような肉体を持ちながら、彼の持つ雰囲気はどこまでも静謐だった。


「はっ、ですがバルクスでの魔物の侵攻騒ぎの意義は大きいです。あれでデザントの戦闘能力を疑う者たちが明らかに増えています」

「元『七師』アルノード……あまり有名ではないが、有能な人間だったのだろうな。地味な活躍は、評価されぬのが常だ」


 ここは属州ゲオルギア――かつて『七師』ウルスムスによって停戦後に多数の兵士を殺されたあのゲオルギアである。


 部下の報告を聞く男の名は、グリンダム・ノルシュ。

 かつてゲオルギアがまだ独立国家だった頃、『不屈』の名で親しまれていた英雄である。

 ゲオルギア公国において、彼は万夫不当の気力使いとしてその名を馳せていた。


 ゲオルギアの民の心は、決して折られてはいなかった。

 約定を違え何万もの命を奪ったデザントに対する敵意は、薄まるどころか日増しに強くなっているほどだ。


「既にプロヴィンキア・ユシタ・エルゴルムは我らのと同じ考えのようですが……」

「――まだ、だな。デザントの支柱は未だ健在だ」


 現在デザントに属州は八つある。

 そしてゲオルギアを含め、既に半数である四属州は着々と反乱・独立の準備を整えていた。

 しかし彼らだけでは、デザントから勝利をもぎ取ることは難しい。

 属州民には強大な気力の使い手は多数いるが、魔法技術に関してはかなり後れを取ってしまっているからだ。


 そのため装備と総合的な戦闘能力の差で勝てない。

 また『七師』と戦って勝てる可能性はかなり少ない。

 そして『七師』を殺せずに逃がしてしまえば、国そのものの維持すらできなくなる可能性がある。

 戦闘に関しては、完全に八方塞がりといってよかった。


 猛者だけでは、デザントの魔法文明には勝てない。

 デザントの覇は、個人ができる限界をも示していた。


 現状、ゲオルギアは他の属州との接触を控えている。

 行った密約がいかなる方法によって盗み見されるかわからぬためである。


 他の属州も似たような考えを持っているようだった。

 何かあれば反乱を起こせるよう機会を窺っているというのも、ゲオルギアと同じだ。


「だがこれでリンブルと繋がる芽ができた。元『七師』のアルノードを経由すれば、俺たちの目論見がバレることもないだろう」


 他国と連携してことにあたろうというのがグリンダムの基本方針だ。

 しかしここでもデザントの技術格差のせいで、ことが露見してしまう可能性があるために大胆な行動に出ることができないでいる。


 だがリンブル王国に元『七師』のアルノードがついたことで、形勢が動いた。

 リンブルとどうにかして渡りをつけることができれば、アルノードの持つデザントの技術を貸してもらうことで、目論見を看破されることなく連携を深めることができる。

 更には他の属州と繋がることのできる可能性も生まれてくる。


「なんとしてでもアルノードと連絡を取る必要があるな。……よし、俺が行こう」

「なっ!? グリンダム様が直接出向かれる必要はありません! あれさえ使わせてもらえるのなら――」

「何か胸騒ぎがするのだ……こういう時の俺の予想は、外れたことがない」


 こうしてゲオルギアの重鎮、『不屈』のグリンダムは単身動き出すことを決める。

 今やリンブルは、ユグド大陸の台風の目となり始めていた――。


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