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七師


「伝令! 第三から第七辺境大隊、壊滅!」

「新たに徴兵した属州兵たちが、命令を聞きません! 懲罰である十分の一刑の執行の際に反乱が勃発、トイトブルクの命令系統は完全に麻痺しております!」

「『七師』ヴィンランド卿重傷! 戦線離脱により戦況悪化!」


 『七師』アルノードを追い出してからというものの、デザント王国が東部からもたらされる情報は悪化の一途を辿っている。

 戦況のあまりの悪さに、デザント国王ファラド三世は頭を抱えていた。


「クソッ、あのバカ息子のせいで散々だ! これでは王位を譲ることもできやしない!」


 第二王子であるガラリオが自らの勢力を強めるためにアルノードを追放したことを、恨んでも恨みきれない。

 アルノードが大隊を率いほぼ彼の手勢だけで防衛を完遂していたことをファラド三世が知ったのは、既にガラリオを出家させバルクスの街のいくつかが陥落してからのことであった。


「いったいアルノードは、どのような手段を使い防衛を完璧に行うことができていたというのか……」


 『七師』アルノードが開発、設置していた魔除けのための各種魔道具は、第三十五辺境大隊の面々がどさくさ紛れに回収してしまっていた。

 魔物避けのポプリも既に効果は切れており、今ではトイトブルク大森林からひっきりなしに魔物が攻め立ててくる状況だ。


 これらを一から開発しようとするのは難しい。

 トイトブルクの生態系に詳しく、それに合った素材や触媒の選定ができる人材は既に国内にはいない。

 今から研究開発を行うことには多大な困難が予想された。


「ヴィンランドも使えん男だ。自信満々にやって、すぐさま大怪我を負うとは」


 自分ならアルノードがやっていたことを、より高い水準でやってのけると豪語していた新たな『七師』であるヴィンランドは、アルノードが収束させたスタンピードの余波を食らっただけで手勢を半壊させ、本人も重篤となっている。


 既にバルクスではいくつもの街が失陥しており、被害は甚大であった。

 天領の失陥は、そのままファラド三世の失政とみなされる。

 既に国内のいくつかの属州では、バルクス防衛のための徴兵による反感もあり、反乱の気運が高まっている。


「だがこれだけで潰れるほどデザントは弱くない。『七師』クックと彼の重装魔導騎士派遣で、侵攻自体は食い止められている。このせいで連邦への侵攻も遅くなる……デザントの軍事は完全に停滞してしまっているぞ」


 だがファラド三世も、彼に付き従う軍務大臣フランツシュミットも決してバカではない。

 彼らは自分たちにできる最善手を打ち、一応現状を停滞にまで持ち込んでいた。


 属州の反乱の気運や貴族たちの王家への侮りを払拭するため、軍務大臣であるフランツシュミットは彼の私兵と王国兵を連れ視察へと出向いている。


 バルクスは東の半分ほどを完全に放棄し、縦深防御の要領で魔物を領内深くまで入れ、魔物同士に縄張り争いをさせるやり方で強引に勢いを殺していた。

 そこから浮いた魔物を狩るだけならば、『七師』クックなら損害なく防衛が可能な状態である。


 だが、予断を許す状態でもなかった。

 とにかく連邦との戦いを早期に終結させ、バルクス防衛と治安維持に回さなければデザントの屋台骨が揺らぎかねない。


「しかし連邦相手に戦線を開いている今、リンブルと仲違いをするわけにはいかない……地方分派への献金を引き上げ、友好ムードを演出する必要があるな。何せあの国には、私たちが身を引き裂いてなんとかしている魔物の侵攻を単身で抑えていた元『七師』のアルノードがいるからな」


 ファラド三世にとって今や、リンブルはボトルネックになっていた。

 リンブルがもし連邦やオケアノスと結託し新たな戦争の引き金を引いたのなら、デザントはいよいよ危なくなってくる。

 リンブルとは何よりも友好を示す必要がある。




「わ、私がですか……?」

「ああ、その通りだ。プルエラには是非、両国の親善の証としてリンブルに表敬訪問をしてもらいたい」

「で、ですが私にそんな大任は……」

「向こうにはアルノードがいる。お前は彼に会いたくはないのか? 折角の礼を言うチャンスだぞ」

「――行きます、行かせてください、お父様」


 ファラド三世はプルエラにリンブル訪問を命じ、彼女はこれを了承した。

 相互不可侵条約を結んでいるリンブルもこれを拒否することはできない。

 その場には必ず、アルノードが出てくるだろう。

 そこでプルエラがアルノードをこちらに引き込むことができれば、それが最上だ。


(リンブルにアルノードがいる……それ自体が何よりの問題だ。あやつがいるだけでリンブルの魔法技術は進み、魔道具は整備され、トイトブルクの魔物の脅威が消える。あいつさえいなくなれば……リンブルも下手な野心は抱かなくなる。何かを言われたとしても、『七師』に広域殲滅魔法を数発撃ち込ませれば黙るだろう)


 プルエラには本当の目的は伝えず、彼女には純粋にアルノードへ自分の持つ思いを伝えろとだけ言っておく。

 ただしファラド三世の策略は、それだけでは終わらない。







「ようやく俺の謹慎を解く気になったのか?」


 ファラド三世が謁見の間に呼び出したのは、一人の男である。

 真っ赤な髪と瞳、そして獰猛な犬歯が特徴の男だ。

 彼はキツい視線を王であるファラド三世にも向ける。

 誰であろうと噛みつこうとする、正に狂犬のような男であった。


「待て、そう逸るでない――『七師』ウルスムスよ」


 ファラドに対してもまったく物怖じしないその男こそが……『七師』が一人、『強欲』のウルスムスと呼ばれる男である。


 彼はデザントが忙しいこの時局にも、まったく動くことはなかった。

 ウルスムスは『七師』でありながら、現在謹慎中の身だったからである。


 その理由は――停戦後に起こした虐殺。

 ウルスムスは現在では属州となっているゲオルギアとの戦争において、捕虜や味方を含める述べ五万人以上の人間を広域殲滅魔法で焼き殺した。


 今までの功績と相殺ということで爵位の没収こそされなかったものの、ここしばらくの間は屋敷を出ることすら厳重な制限が課されていた。


 ここ数年のあいだは、彼が勝手な行動を取らぬよう、王都に『七師』を常に一人ないし二人置いておかねばならなかった。


 

 『七師』を頻繁に派遣できぬ理由はいくつかあるが、王都に複数人の『七師』を滞在させねばならない最大の理由は、このウルスムスの存在だった。


「ウルスムスよ、長い蟄居にも飽きたであろう。もし良ければ物見遊山でもいかがかな?」

「あはっ、俺を出してくれるのか? それなら喜んで行かせてもらうが」

「隣国リンブルなどどうかね。ちょうど我が国を抜けた元『七師』のアルノードもいるのだが」

「アルノード……あのいけ好かねぇ野郎か」


 ウルスムスは元々トリガー公爵家の次男である、由緒正しき血統の持ち主だ。

 彼は強い選民思想を持ち、孤児でありながら『七師』の座についているアルノードのことを何よりも嫌っていた。


「俺に何をしろと?」

「今から私は独り言を話そう。それを聞こうが聞くまいが、お前の自由だ」


 あらかじめ予防線を張りながら、ファラド三世はウルスムスを見据える。

 無論彼は、アルノードへ抱く敵意を理解した上でウルスムスを呼んだ。


 そう、全ては――リンブルのこれ以上の伸張を防ぐために。


「アルノードを――殺せ」


これにて第一章は終了となります。

明日間章を挟み、明後日から第二章を始める予定です。


たくさんの感想、ブックマーク、評価、誤字報告ありがとうございます。



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