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王子の憂鬱 3


【side ソルド・ツゥ・リンブル=デザンテリア】




 案内されて向かったのは、ドナシアにある代官の屋敷だった。

 パーティールームへ入ると、俺を含む王党派の重鎮たちが揃っている。


 だが、中には既に地方分派に鞍替えしている奴らもいるな……なるほど。

 地方分派の奴らにも、アルノードと『辺境サンゴ』の力を見せつけておこうというアルスノヴァ侯爵の粋な計らいということか。


「あれは何をやっているのだ?」

「とある魔道具の調整にございます、殿下」

「魔道具……?」


 アルスノヴァ侯爵と俺が見つめるその先には、何やらデカくて黒い箱が置かれている。

 その奥の方で五人ほどの魔導師然とした者たちが、何やらその箱を相手に悪戦苦闘している。

 いったい何をしているかはわからないが、彼らの顔つきは真剣だった。

 侯爵に聞いてものらりくらりとかわされ、答えは教えてもらえない。

 ここから別の場所へ移動するのだろうか。


 周囲にいる貴族たちに挨拶をこなしてからしばらくすると――いきなり室内が暗くなった!


 すわ暗殺かと俺を含めたみなが恐慌を起こしかける中、一人落ち着いているアルスノヴァ侯爵の低くよく通る声が響いた。


「安心してくだされ、みなの衆。これは今から使う魔道具のために必要な措置でしてな」

「ほう……いったい何が起こるのか、楽しみに待たせてもらおうではないか」

「殿下が期待している以上の物をお出しできるとお約束致しますよ……シュウ、準備の方はどうか?」

「できたので起動します――スイッチ、オン!」


 ブワン、と虫の羽音を大きくしたような音が聞こえたかと思うと次の瞬間には――室内に何かが、浮かび上がっていた。


 そこに映っているのは――ドラゴン。

 見るだけでどこか神々しさと怖気を呼び起こす、ただならぬ雰囲気を持った個体だった。

 一瞬緻密に描かれた絵画かと思ったが、そのあまりのリアルさに即座に否定する。

 ドラゴンがまばたきをしたことで、これが今まで見たことのない何かであることがわかった。


「これがこちらにいるシュウが開発した新たな『通信』の魔道具――『通信箱』でございます。この映っている像……映像は、向こうにいる『辺境サンゴ』の『通信箱』と繋がっており、リアルタイムのものが投影されております」

「は、はは、なるほど……これは度肝を抜かれたな」


 遠くの様子を見る遠見の魔法クレボヤンスは、術者にしかその映像を投影しない。

 けれどこの魔道具であれば、たとえ魔法の心得がないものにでも遠距離の映像を見ることができる。

 これは正しく――革命だ。

 従来の情報伝達そのものに、凄まじいまでの影響を及ぼすだろう。


 この魔道具があれば、戦況をリアルタイムで知ることができる。

 伝令兵というものは、なくなるかもしれない。


 ……今回はそういう場ではないというのに、つい戦時利用について頭がいってしまうな。

 もうこれは、職業病と言ってもいいかもしれない。




 思考を巡らせながら映像を見続けていると、そこに変化が生じる。

 いくつもの人影が映り、ドラゴンが応戦を始めたのだ。


 当初予定していた『辺境サンゴ』とドラゴンの戦いが始まったのである。

 だがこの目で見たものを戦いと呼ぶことは、間違っているように思える。


 俺にはそれは、蹂躙や弱い物イジメにしか見えなかった。


 見た瞬間気圧されたほどのドラゴンが、一騎当千の猛者たちによって傷つけられ、スケルトンたちの自爆特攻により怪我を負い、飛ぼうとすれば拳打によって地面へと縫い付けられる……これをいったい、なんと表現するべきか。


 あれほど大量のアンデッドを使役すること、アンデッドたちそれぞれに持たせることができるほど大量の魔道具。

 一人一人がドラゴンに手傷を負わせることができる手腕を持つ優秀な配下たちに、それらを統率しドラゴンに深い傷を負わせていた何人もの豪傑たち。


 それら全てが、俺には絵巻物の中の出来事にしか思えなかった。

 しかし、これは――紛れもない現実だ。


 そして更に恐ろしいことに――この戦いに、アルノードは参加していない。

 つまりこの戦いは『辺境サンゴ』にとって、彼自身が参戦する必要のないレベルのものでしかないのだ。


「アルノードを、絶対に敵に回すわけにはいかないな……」

「殿下もこうして映像を見てわかっていただけたと思います。果たして彼らがいったいどれだけ規格外なのかを」

「ああ、本当ならこの『通信箱』だけでも十分なインパクトがあったというのに……あの戦闘の様子を見せられては、それさえ霞む。とにかく『辺境サンゴ』に対しては十分な礼を尽くそう」

「賢明な判断にございます、殿下」


 これだけの力を見せられてなお、アルノードに対して冒険者だのデザントのスパイだのと言うバカな奴らもいるのには呆れるしかない。


 侯爵に聞けばこのデモンストレーション自体がそういった貴族を納得させる側面もあるということらしいが……自派の人間のオツムがそこまで弱いとは、また新たな頭痛の種が増えそうだ。


 他の奴らは俺が黙らせよう。

 『辺境サンゴ』がやりたいようにさせるのが、絶対に一番いい。

 侯爵の娘御たちを経由して、軌道修正くらいはさせてもらうがな。


 なにせ彼らは、リンブルのために動いてくれているのだから。

 何よりも第一に、機嫌を損なわせてはいけない。

 現状では『辺境サンゴ』なくして、魔物の進軍を抑える術はないのだから。


 彼らに負担が行きすぎないよう、リンブルの国軍もある程度の軍を出す必要があるだろう。

 ……地方分派の中でも浮いている奴らをこちらに寄せて寝返らせるか。


 あらゆるものがこの激動の中で動くだろう。

 俺はなんとしてでも、この波を乗りこなさなくてはいけないな。

 だがそのためにはまず……。


「これからあの軍隊を従えている元『七師』と会うんだよな……侍医に胃薬を用意してもらうとしよう」

「賢明な判断にございます、殿下」

第一章は残り一話、最後までよろしくお願いします!


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