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王子の憂鬱 2


【side ソルド・ツゥ・リンブル=デザンテリア】



 アルスノヴァ侯爵が引き入れた元『七師』――『怠惰』のアルノード。

 その実力は、単身トイトブルク大森林を守っていたという噂に違わぬほど凄まじいものだった。


 彼が率いる冒険者クラン『辺境サンゴ』は、俺たちが劣勢で防戦一方だった魔物との戦況を立て直してしまった。

 魔物の脅威の大部分が消え、彼らは残敵掃討や森からの新たな侵入を警戒し、罠を張っているほどである。

 魔物の数自体も順調に減っており、かつて放棄せざるを得なかった各地の危険度も減少傾向にある。

 防衛体制や警戒態勢が整えば、そう遠くないうちにかつての領地へ難民たちを帰すこともできるようになるだろう。


 停滞していた何もかもが動き出していた。

 そしてその流れを作ってくれたのは、間違いなく彼らだ。

 当時の部下まで引き連れて俺たち王党派へついてくれた『怠惰』のアルノード様々である。

 彼の去就は、トイトブルク大森林からの魔物の氾濫に地方分派の裏工作、弱り目に祟り目という有り様だった俺たちに現れた久方ぶりの朗報だ。

 今の我々がなんとかしてリンブルをまとめるためには、彼の協力が必要不可欠だった。

 王党派を纏め上げるためにも、そして地方分派を牽制するためにも。

 だから俺は、危険だとしきりに言ってくる周囲の奴らを無視して、行ってみることにしたのだ。

 ――『辺境サンゴ』が行うという、戦闘映像のお披露目会というやつにな。



 まず最初に驚いたのは、行われるドナシアを囲む外壁だ。

 俺が想定していた物より、ずっと立派な物が築かれている。

 魔物の侵入も防げそうなほど堅牢で分厚く、焼きしめられた杭や壕によって何重にも侵攻を阻止するための罠が張り巡らされている。


 見れば見たことのない魔法生物が、土木作業を手伝っていた。

 聞けばあれは、アルノードの部下が作ったミスリルゴーレムなのだという。


 ゴーレムの作成ならば問題はないだろうが、あのサイズ、そして素材にミスリルを使っているとなると……果たしてうちの宮廷魔導師で、再現できる者がいるかどうか。


 門を抜けてみると、ドナシアの街は少し前まで魔物たちの侵攻に怯えていたとは思えぬほどに明るい雰囲気だった。

 外壁と『辺境サンゴ』が供与した魔道具、そして兵士や冒険者たちによる魔物狩りが進み、以前のような魔物の被害を受けることがなくなったのが原因だろう。


 大量に狩りすぎてしまうせいで、魔物の素材がだぶついているほどだった。

 見れば遠方へ向かう大量の馬車の群れがある。

 各地からの名産品も届いており、物の行き来はかなり頻繁になっているようだ。


 不安は払拭され、失った領地もそう遠くないうちに戻っていくだろう。

 道中の魔物による襲撃にも対応が可能になり、余所へ行く場合はずっと安心に商売ができる。


 そんな希望的観測と『辺境サンゴ』によってもたらされたデザントの魔法技術、そして魔物の素材によって経済は非常に活発化していた。


「これは……特需が来るな。今のうちに俺たちも、一枚噛ませてもらうか」

「もしやるのなら、魔法技術の方でしょう。特許や機密関連のことは、国がまとめた方が上手く回ります」

「うちのシンパに回し、地方分派の奴らには情報を差し止める。向こうが焦って手を出してきても大義名分ができてよし、何もしてこぬなら技術格差が広がってよし。どちらに転んでも、悪いようにはならないな」


 街を歩きながら、俺の政治顧問である政務官のネッケルと話し合う。

 こいつも俺と同じで、何事も現場を見なければと考えるタイプの男だ。

 神経質で細かいが、俺が大雑把な分こういう奴が近くに居た方がバランスが取れる。


 それにしても……話に聞くのと、実地で五感で感じるのとではやはり大きく違う。

 郊外でも大して栄えていなかったはずのドナシアでこれならば、他の街ならば繁栄の規模が更に大きくなっていることだろう。


 今まで東部に金が落ちてこなかったのは、魔物の襲撃というリスクがあったからだ。

 だがそれがなくなった以上、今後東部は栄えていく。

 強力で稀少な魔物の素材が回るようになれば、ここは言わば開かれたダンジョンのような形で、魔物の素材の一大供給地点となってくれるだろう。


 我らの金回りがよくなったのなら、鼻薬を嗅がされているうちの貴族たちもなんとかできる。

 『辺境サンゴ』がもたらしてくれたのは、純粋な戦闘能力だけではない。

 魔法技術、そして更には経済的な利益まで。

 ここまでされれば、リンブルとして彼らに応えないわけにはいかない。


 貴族位程度、惜しくはない。

 既に防衛時に当時の貴族たちはほとんどが討ち死にしてしまっているため、ここら一帯の土地の賞与に文句をつける者もいないしな。

 この防衛戦より東、未だ人の住んでいない領域を、まるまる辺境伯領として認めるのが得策だろうか。


「どうやら彼らは、自分たちが邪険にされなければそれでいいようです」

「……なんだ、それは。これだけのことをされて、どうして粗雑に扱えようか」

「デザントでは功績を横からかすめ取られ、苦労していたようなので……」

「なんと、デザントの奴らの目は節穴か!?」


 アルノードは貴族位を求めていないようだ……どうやら彼に権力欲はないらしい。

 だが何もしないというのも王家の面子的にマズい。


 では一度……それこそ龍の討伐をこの目で確認してから会って話してみるとするか。

 俺が来た一番の目的は、この機会にアルノードと面識を持つことなのでな。


 にしてもお披露目会とは言っても……果たしてどうやって、俺たちに戦いの様子を見せるつもりなのだろうか?

第一章は残り2話、本日完結予定です!


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