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冒険者


 冒険者ギルドに入ると、周囲からいくつもの視線を感じた。

 みんなが見ているのは、俺ではなくその後ろにいるエンヴィーたちだ。

 この辺の人間は、基本は金髪碧眼だからな。

 エキゾチックな見た目をした女の子が珍しいんだろう。

 冒険者たちの視線が、彼女たちに釘付けになっている。

 元上司のひいき目を抜きにしても、二人はかわいいからな。


 俺の方を見てペッと唾を吐くようなジェスチャーをする者もいる。

 カウンターにはむさいおっさんとかわいい受付嬢が居たので、俺はむさいおっさんの方を選ぶ。

 だってかわいい子の方、めちゃくちゃ並んでるんだもん。

 それに歴が長い人の方が、有益な話とかしてくれそうじゃん?


「かくかくしかじか……というわけです。何か質問はありますか?」

「ありません」


 説明を聞きながら観察すると、おっさんの身体には古傷が残っているのがわかる。

 多分、以前冒険者をやっていたんだろう。

 ある程度業績なんかが認められれば、引退してからギルドで雇われることもあるらしいから、その口だろうな。


 冒険者ギルドとしての組合規則なんかは、王国のものとほとんど変わらなかった。

 ざっくりと言えば、悪いことをしたらギルドの猛者が殺しに来るから、変な気は起こすなよというやつだ。

 冒険者は武力を持ちながら、世俗の支配を受けないという選択を採ることができる。

 そのため力の行使には、ある程度の制限がかかっているのだ。

 市民相手に武器を抜いちゃいけないとか、問題が起こったら必ずギルドを通さなくちゃいけない……みたいな感じで。

 けどまぁ、このあたりは向こうで冒険者をやっていたこともあるのでよく理解している。

 向こうとこっちの違いはといえば……ランクの呼び方が金属なことくらいだろうか。

 デザントでは


『E・D・C・B・A・S』


 という風になっていたのが、こっちのリンブルでは


『鉄・銅・銀・金・ミスリル・オリハルコン』


 という形で呼び表される。

 ちなみにランクを上げるために必要なのは、ギルドへの貢献だ。

 指名依頼を受けた回数だったり、依頼の達成率だったり、貴族からの推薦だったり……実は案外としがらみは多い。

 純粋な実力だけじゃなくて、いかにギルドにとって役立つ人材かということの方が重要視される傾向がある。

 デザントではどんだけ実力があっても、目上への礼儀がなかったり、素行不良が目立つような奴はBより上には上がらなかった。

 俺もギルドのためというより自分のための素材集めしかしてこなかったので、ランクはB止まりだ。


 ――そう、俺は宮廷魔導師になる前は冒険者をやっていた。

 本業は公務員としての魔導師稼業だったので、あくまで副業としてだけど。


 魔道具を作るための素材は自分で調達した方が安く上がるし、そもそも依頼では取ってきてもらえないような僻地にしかない素材が必要なことも結構多い。

 『給水』の魔道具で出る水の味を変化させる場合にだけ使う『ジガの根っこ』みたいに用途がかなり限られているものの場合、大抵は自分で調達しなくちゃならないのだ。

 依頼をしようとすると足が出ちゃうから、どうしようもないんだよな。


 自分にとって必要な物を入手して、余った物を売ったりしていただけだったので、依頼らしい依頼はほとんど受けていない。

 結構な量の魔物の素材を持ち込んでいたので、それでも一応ランクはBだった。

 デザントと仲がいい(今だけだろうけど)リンブルでは、向こうの実績がある程度通用する。

 デザントで出している功績を疑うようなことはしない、というポーズが必要なわけだ。

 そのため俺は向こうでいうCランク相当の、銀級として認められることになった。


「このままパーティーを組めば、Cランクとして活動してもいいんだよな?」


 冒険者パーティーでは、リーダーのランクが参照される。

 そのため俺がエンヴィーたちとパーティーを組めば、いきなりCランクとして活動ができるようになる。

 もちろん依頼の履歴なんかも見られるから、そんなハリボテのCランクには大した依頼は来ない。

 いずれは彼女たち本人のランクも上げてもらう必要があるだろう。


「まぁ問題はないですが……非力な女性を連れていくのはおすすめしません、デザントとは違ってこっちはそれほど治安もよくないので。お連れの方のような見目麗しい女性は、人さらいなんかに狙われる可能性もありますし」


 職員さんはエンヴィーたちを俺の情婦か何かだと勘違いしているらしい。

 たしかに彼女たちの装備は一見すると大した物には見えないからな。


 エンヴィーたちが着けている鎧は、ボロボロの革鎧だ。

 上から目をつけられるわけにはいかなかったので、大したことのない装備にしか見えないよう『偽装』の効果がついている。

 実際はドラゴンの皮革をふんだんに利用している、自信作のうちの一つだ。

 高い鑑定眼ギルド職員の目もしっかりと欺けたようで、作成者の俺としても大変満足である。


 二人に装備してもらっている『ドラゴンメイル』の実際の性能は、恐ろしいくらい高い。

 そもそもミスリルの剣でも通らないドラゴン素材を使っているというだけで、デザントの冒険者でもAランクを超えなければ買えないような代物だ。

 更にそこに俺が付与魔法でいくつもの効果をつけているので、革鎧としては最高級品。

 少なくとも今まで俺が見てきた中じゃ、一番堅牢な革鎧になっていると思う。


 ついている効果は『偽装』『斬撃軽減』『打撃軽減』『魔法減衰』『身体能力上昇』の5つ。

 実戦証明コンバットプルーフもあるので、実際の防御力も折り紙付きだ。


 魔道具につく効果の度合いは、道具自体の魔力の親和性や使う触媒の魔力含有量の高さ、道具と触媒との親和性などのような色々な要素によって変わってくる。


 ちなみに触媒には魔石を砕いて溶かした液体を使うことが多い。

 基本的には素材となる魔物から採った魔石を使うと、一番効果が高くなることがほとんどだからな。


 だがそこでも満足しなかった俺は、複数の魔物の魔石を砕き、更にそれをドラゴンの胃液で溶かし、混合物を濾過して極限まで魔力含有量を上げることに成功している。

 おかげで彼女たちの装備は、そんじょそこらのドラゴン系の防具には負けないものに仕上がっている。

 そんなにドラゴン装備を持っている人間はいないので、これも比較対象はほとんどないんだけど。


「問題ないです。こんななりですけど、二人とも結構やりますので」


 そう言って後ろを振り返ると、エンヴィーはぐっと右腕を曲げて力こぶを出していた。

 彼女はムキムキというよりスラッとした体型なので、どちらかと言えば真っ白な肌の方に目が行く。


 マリアベルはシュッシュッと誰を相手にしているかわからないストレートを繰り出し、一人シャドーをしていた。


「かかってきなさい!」

「私は負けない」


 二人の態度を見て、受付のおっさんが困ったような顔をしている。 

 ……そんな顔しないでくれ、俺も困ってるんだから。

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