ドラゴン
そしてようやく、俺たちの戦いの機会を整えることができた。
エルルたちの案内に従い、ドナシアを出発してから数十分ほど経つと目的のドラゴンが見えてきた。
かなり近いな……たしかにこれは、彼女たちも言っていたようにさっさと狩らなければ危ないだろう。
今は非好戦的かもしれないが、もし血迷って冒険者が手でも出そう物なら……きっと周辺一帯に惨劇が起こることになるだろうから。
対するこちらは、『辺境サンゴ』のフルメンバーだ。
非戦闘員たちは、後方待機をしたり、ドナシアとこちらをつなぐ『通信』の魔道具の調整に忙しい。
シュウ達を除く五百五十人全員が、隊列を組んで戦いの準備を終えている。
「よしお前ら――今から久しぶりのドラゴン狩りだ!」
ドラゴンの感知能力は高い。
既に間違いなく場所は知られているので、奇襲をする意味は薄い。
それならば上手くいくかも分からない不意打ちを狙うより、大声を上げてみなの士気を上げた方がずっといいだろう。
後ろを振り返れば、誰一人俺のことを疑わず、まっすぐとした瞳で見つめているのがわかった。
『辺境サンゴ』として生まれ変わった俺たちが、いったいどれだけ重要な存在なのか。
リンブルの貴族たちに、しっかりと見せつけてやらなければならない。
上位龍の純粋な戦闘能力は、俺よりも高い。
俺が一番出せる高威力の魔法を『超過駆動』で放っても、一撃で仕留めることは難しいだろう。
もし俺が単騎で戦うのなら、気力と魔力の合一による身体強化――魔闘気を使う必要がある。
けれど今回、それはしない。
今回見せたいのは俺の戦闘能力ではなく、『辺境サンゴ』の総合的な戦闘力だからだ。
俺たち『辺境サンゴ』が傾向と対策を練りしっかりと準備を整えれば、どんな相手だろうが倒すことができる。
それを見せることが第一の目的である。
そしてこれは、温い防衛任務に慣れぬよう、『辺境サンゴ』を引き締めるためのものでもある。
格上との戦いを経なければ、いずれ俺たちは痛い目を見る羽目になる。
今後もきっと、強敵たちと戦うことになるだろうからな。
だからたかが上位種のドラゴンごときで、躓くわけにはいかないのだ。
「戦闘用意!」
「「「ハッ、戦闘用意各員戦闘用意!」」」
俺の命令が百人隊長の六人に伝わり、それが各小隊へ、そして小隊の構成員へと伝わっていく。
この命令系統は、大隊だった頃のままを維持している。
新たに作り直すより、今までと同じチームでやった方が連携もずっとまともにできるはずだからな。
「gyuaaaaaaaa!」
こちらに向き合うは、この場に長いこと居座っていたらしい上位龍。
俺たちの戦意に呼応してか、琥珀色の目を大きく開き咆哮を上げている。
体色はくすんだ銀色で、全身の鱗はスケイルメイルのように何重にも重なっている。
物理防御力は間違いなく高いだろうし、恐らくは魔法防御もしっかりしていると考えた方がいい。
上位龍は長い時間を生きたからか、個体ごとの差異が大きい。
俺たちはこの龍を、シルバリィドラゴンと仮称していた。
シルバードラゴンは他に居るし、とりあえずの名付けだ。
どうせこいつが死ねばもう同個体は出ないだろうから、適当なネーミングで済ませている。
「投擲構え!」
「「「ハッ、『闇玉』構え!」」」
既にこの戦場に向かう段階で、各員の気力による身体強化は終えている。
魔法使い組の強化魔法も済んでおり、作戦に使用する魔道具も、有事の際に使用する『回復』の魔道具も各員に配り終えている。
もし命の危険があったときに使う『不死鳥の尾羽』も未だ五つある。
準備は万端、と言っていいだろう。
「――戦闘開始!」
俺の声に従い、各員が手に持つ魔道具を投げつける。
そしてドラゴンの周囲は、闇に包まれる――。
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