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思惑


「隊長!」

「わっ、隊長だ!」

「あれ本物かな、実は幻覚だったりしない?」

幻影騎士ファントムナイトはさっき倒したでしょ、大丈夫よ……多分」


 ライライから遅れること数十分ほど。

 懐かしい顔ぶれの面々と、俺は久しぶりに再会をした。

 少し茶化しながらも点呼を取ると、幸いなことにメンバーは誰一人も欠けていなかった。

 みなの顔はかなり疲れていたが、それも当然だ。


 本来敵を削っていたセリアのアンデッドも悪魔たちは、こっちに来るに当たって全部引き上げていたらしいからな。

 セリアから最初に聞いた時は本当にビビった。

 そして大隊のみんなからの許可を得ていると聞いて、更にビビった。


 後方勤務になりあまり戦う機会もなくなったし、なんなら俺の方に行きたいと思っている。それならまず全力で、俺の方の基盤を整える手助けをしてほしい。

 それが全体としての総意だったんだとさ。


 なんというか、ありがたいやらすまないやら……。

 皆をねぎらい、とりあえずこんなところで再会を祝うのもと近くの街へ向かうことにした。

「よし、走るぞ。遅れずについてこいよ。街に着いたらゆっくり休んでいいから」


 俺はギリギリ大隊のメンバーがついてこれる速度で走ったつもりだった。

 けれどみんな疲れで皺を寄せた顔をしながらも、わりと平気な顔をしてついてくる。


 ……そっか、当たり前だけどこいつらも俺と離れている間にちゃんと成長しているんだ。

 なんだか嬉しくなり、俺は更に速度を上げた。

 テンションが上がったせいで、街に着く頃にはかなり距離が離れてしまっていた。

 ……自分ではわからないが、結構舞い上がってるのかもしれない。






「ほぉ、なるほど、新しい『七師』が……」


 ライライたちがデザントとトイトブルク大森林の境界を、危険を冒してまで進んできたのには当然ながら理由があった。


「はい、私たちのように抱えていた魔導騎士大隊は半壊し遁走。『七師』になったヴィンランドも重傷を負い戦線を離脱しています。本人は王家に隠しているようですが」

「新しい『七師』も、やっぱり見栄っぱりなんだな」

「見栄とプライドは魔導師の標準装備ッス。隊長がおかしいだけかと」


 どうやら俺の代わりに入ってきた『七師』のヴィンランドという男が、大ポカをやらかしたようだ。

 そのせいで今や、トイトブルク生まれの活発な魔物たちのデザントへの侵入を許してしまっているらしい。

 おまけに本人も魔物との戦闘でやられてしまっていると。

 前線がまともに連絡も通じないくらいに混乱してたから、そのどさくさに紛れて全員軽く伝言だけして退役したらしい。 

 そして下手にいちゃもんをつけられる前に、境界線を超えこちらまで来てしまったんだと。

 まぁ今までバルクス防衛を頑張ってきた第三十五辺境大隊を後方勤務にして、大して引き継ぎもせずに自分の抱える大隊と入れ替えたら、そりゃぐちゃぐちゃになるよなぁ。


 俺たちがまともなマジックウェポンで武装するまでに、どんだけ苦労したと思ってるんだ。 最初の一ヶ月くらいは、常に死と隣り合わせだったんだぞ。

 赴任の前に事前に用意してた『欺瞞』と『幻影』の魔道具『森へ帰れ!』を作ってなかったら、リアルにデザントに魔物の群れがなだれ込んでいただろう。


「他の『七師』とその配下を動員して、第二防衛ラインは突破させてないみたいだけどさ」

「そこらへんはしっかりしてるな」

「属州兵を徴兵して、反攻に転じるんだって」

「反乱対策にもなるだろうし、上手い手だと思う」


 デザントという国は広大だ。

 ぶっちゃけ属州の多い東部エリアは、経済的に重要な地域ではないので替えが利く。

 兵馬の産地ではあるので、軍事的には痛手だろうけど。


 属州兵の大量動員は諸刃の剣でもある。

 属州の人間にはエンヴィーやマリアベルのような戦い大好きっ子が多いが、徴兵されて無理矢理戦わせれば反感は拭えない。


 徴兵は治安維持や反乱防止の短期的な目で見れば有効だが、治安維持や国体護持の長期的な視野で見ると、あかん感じがするな。

 それはデザントに見えない根を張り、反乱の芽を大きく育てていくことになるだろう。

 リンブル視点から考えれば……ありがたい話ではあるんだけど。


「新しい指揮官次第では、属州兵をまるごとリンブルに引き抜くこともできそうですね」


 エルルはおとがいに手をやりながら、地面を見つめている。

 最寄りの街だったエグラに行くと、何故かハァハァ言いながらこちらへ駆けてくるエルルの姿があった。

 おかげで彼女とだけは既に合流済みだ。

 既に息は上がっておらず、平常心を取り戻してくれている。


 どうやらエルルは使い魔を確認してすぐに、全力で俺の方へ向かってきていたらしい。

 こいつの気力探知の範囲はそんなに広くなかったはずだが……偶然近い街にでもいたんだろうな。


「引き抜くと角が立つからそれはナシだな。リンブルとデザントの相互不可侵条約は未だ有効だ。だからできればコンタクトを取って、内々に独立を支援するくらいにしといた方がいいだろう。これなら向こうにいちゃもん付けられても、『こっちの地方分派の金の流れがおかしいんですが、何か知りませんか?』と切り返せる」

「なるほど、さすが隊長」

「ミミィ、何言ってるかわかんない!」

「リリィもわかんない! 一緒だね、お姉ちゃん!」

「「ねーっ!」」


 メンバーが揃ったせいで、普段の何倍も周りがやかましい。

 大隊の――もう全員揃ったから、これからは『辺境サンゴ』呼びで行くか。

 『辺境サンゴ』のメンバーの頭の回転速度はかなりまちまちだ。

 戦えればいいというやつから、シュウみたいに引きこもって研究だけしてたいというやつまで実に人材の幅が広い。

 そのせいで俺は大分頭を悩ませてるわけだが……俺のイエスマンだけが揃っているよりずっといい。


 やっぱりこういう真面目な話をするときは、ある程度面子を絞らなくちゃダメだな。

 戦いたい奴らには、然るべき場所を与えてあげた方が、向こうも嬉しいだろうし。


「まっ、とりあえず大体のことはわかった。どさくさ紛れの退役にとやかく言われるかもしれんが、そこらへんはアルスノヴァ侯爵に任せよう。まずはゆっくりするか」

「隊長、一つだけ報告が」


 真面目そうな顔をするエルルの話によると、なんでもドナシアという街の近隣に、上位龍が棲み着いているらしい。

 ふぅん……面白いな。

 そういえばシュウが作ってたアレ、一応そろそろ目処がつくって話だったはずだ。

 それなら一丁、『辺境サンゴ』の実力のお披露目会でもやってみるか。

 なるたけ盛大に……な。

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