エルルの想い
【side エルル】
「あれは……中位龍?」
「にしては気力の量が……それにサイズも大っきいし」
「初めて見るけど……多分上位龍」
私たちが向かっていった先、明らかに一つだけ強大だった反応の正体は――ドラゴンだった。
体色は灰色で、大きさはバカみたいに大きい。
鱗は板金のようになっていて、明らかに物理耐性が高そうな感じがする。
中位龍と上位龍の間……上位龍の中では弱い方、くらいに考えておいた方がいいか。
「どうする? 倒す、倒そっか、倒すよね?」
「何その三段活用」
「龍種かぁ……こっちに来る魔物を間引いてくれてはいるんだろうけど……」
既に私たちは、ドナシアからかなり森よりに進んだ場所へとやって来ている。
あらかたの清掃は完了しているため、問題はない。
強い個体はマリアベルが、魔物の群れはエンヴィーが倒してくれた。
そして私は彼女たちがこぼした魔物を、逃さずに処理してきている。
おかげで今は、ゴブリンやオーク等のシュウでも対応できる魔物以外はほとんど完全に駆除が完了していると言っていい。
「私たちが次の街に行ってる間に攻められたら、即席の防衛施設じゃどうにもならない」
「あいつがここでふんぞり返ってるってことは……倒しといた方が、安全だよね?」
シュウが作る要塞がどれほど堅牢かはわからないが、数日の突貫工事ではさすがに限界はある。
素材を惜しみなく使ったとしても、目の前の龍が攻めてくれば街は簡単に亡ぶだろう。
そうすると倒した方がいいかもしれない。
だが現状、ドラゴンは動いていない。
見れば、ドラゴンの周囲には雑草が生え始めている。
ここしばらく、激しい戦闘は行われていないということだ。
恐らく既に索敵範囲に入っている私たちに即座に攻撃を仕掛けてこないところからも、気性は大人しめだと推測できる。
私たちならあのドラゴンを狩れるだろうか。
できるかどうかで言えばできるだろうが、あまり無理はしたくないところだ。
誰かが『不死鳥の尾羽』を使わなければいけないような大怪我をする可能性もある。
残された尾羽の数は五つ、そのうち私に渡されているのは一つ。
これを今使うような危険を負うべきか否か。
ドラゴンを倒してしまったせいで、新たな魔物の群れがドナシアへ行ってしまう可能性もある。
どう動くかを判断するのは、この本隊を任せられた私だ。
私は考え……そして決断する。
「別の街へ行きましょう。ドラゴン狩りはまた次の機会に」
「えー……」
「ぶぅ」
二人は不満そうだが、この隊のリーダーは私だ。
逆らいはせず、すごすごと帰る私のあとをついてきた。
私たちの目的は、侯爵に取り入ること。
でもそもそも取り入る目的は、私たちの身の安全のため。
ここで下手なリスクを取る必要はない。
もし龍が攻めてきてドナシアが地図上から消え失せたとしても、私たちが無理をしない範囲で、できることをしたのは事実だ。
それを批難されることは、今後のことを考えれば絶対にない。
それにこれ以上の魔物の侵攻を防ぐという目的のためには、急ぎ各地を転戦し現状を好転させる必要がある。
一つの場所にあまり長く留まっていてはいけない。
私たちはドナシアで無理のない範囲で補強と魔物の討伐を行い、すぐに次の街へと向かっていった。
どんどんと、デザントから離れていく形でリンブルを縦断していく。
きつい戦い自体は、何度かあった。
けれど隊長がいない以上、無理だけはしなかった。
アルノード様はトイトブルク大森林に近い最前線で、悪魔とアンデッドによる防御網を作っているはずだ。
第一の防衛戦をアルノード様とセリアが造り、第二の防衛ラインを私たちが構築する二段構え。
わかってはいるけれど……アルノード様と離れることは、本当に耐えがたい。
私が頑張っているのは、隊長に褒めてもらいたいから。
私が戦っているのは、そうすれば隊長の近くにいることができるから。
私が頭を回すのは、そうした方が隊長が喜んでくれるから。
隊長、隊長、隊長。
私の頭の中のほとんどは、常に隊長のことで占められている。
隊長に会いたい。
会いたいよ。
会って、頭を撫でてもらいたい。
その一心で、私は各地を転戦し続けた。
途中何度か懸想されることもあったが、全て丁重にお断りさせてもらった。
私の貞操は、ぜーったいに隊長に捧げるのだ!
それは全体の行程の三分の二ほど、七つ目の街であるゼノーブの補強を終えた時のことだ。
ようやく向こうの目処が立ち、セリアの使い魔が私たちの下へやってきたのだ!
待っていてください、隊長。
今――あなたに、会いに行きます!
【しんこからのお願い】
この小説を読んで
「面白い!」
「続きが気になる!」
「エルルはアルノードがそんなに大切なんだね!」
と少しでも思ったら、↓の★★★★★を押して応援してくれると嬉しいです!
あなたの応援が、しんこの更新の原動力になります!
よろしくお願いします!




