金色
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【side サクラ】
私たちは土木ギルドの案内に従い、要塞へとやってきている。
要塞の様子は無惨なものだった。
元は魔物の襲撃に備え、四方に土壁が築かれて、その奥には波と呼ばれる落とし穴と堀の中間のようなスペースがあった。
けれど今や堀には大量の魔物の死骸がうずたかく積まれており、下の方の死体は腐り始めている。
土壁は既に何カ所か破られていて、修繕の跡が見られる。
ドナシアの街の中に、既に住民はほとんどいない。
キグナス子爵自らが頭を下げ、余所の領地へ移らせているからだ。
街の中に居るのは防衛のために詰めている兵士たちばかりだ。
リンブル国軍と領主軍、そして私たち王党派の援軍が大体同じくらいの割合で駐屯している。
いつ魔物の襲撃があるかわからないからか、彼らの瞳はギラついていた。
昔父に言われた、戦場に長く居ると鬼に取り憑かれているという物語を思い出した。
なんとしてでも現状を好転させなければならない。
私は父のコネと『聖騎士』であることを盾に強引に交渉を行い、土木ギルドの職人たちを徴集した。
彼らは職人気質で、死ぬまでドナシアと運命を共にすると言って聞かない者たちだ。
実際に会ってみると兵士のような格好をしている者もいたので、実際に戦ってもいるのだと思う。
私が事前にアルノードに言われたことは二つ。
まず一つ目は、とにかく土を集めること。
そして二つ目は、土が固まらないように定期的にほぐしておくこと。
おかげで今のドナシアの一画には、まるでどこかを地盤ごと掘り返したのではないかというほど大量の土がある。
固まっていないそれらの土は、土木ギルドの男たちが手を抜かずに仕事をしていたことの証明だった。
「おい、本当にこれでよかったのか? 仕事っつっても、ただ土を集めただけなんだが」
「ああいえ、問題ないです。僕が今からやることに文句さえつけなければ、それでいいんで」
「おいお前、そんな言い方――」
「どうどう、すまないリンギール殿、彼も悪気があってやっているわけではないのだ」
私はわざとやっているのではないかと疑うほどに無神経なシュウを見つめるが、彼はこちらの方をちらりと見ようともしない。
シュウはギルドの棟梁である男にぞんざいな言葉を返す前からずっと、ドナシアの男たちが築いた土の壁に触れている。
そしてペロリとなめて、一つ頷いた。
「離れててください、危ないんで」
彼は周囲の人間の反応を気にすることなく、着ているコートを何やらがさがさと動かし始めた。
そしてコートのボタンを取り、バッとこうもりのように拡げた。
その中には――数え切れないほどたくさんの袋がある。
小さな物から、コートの大きさ目一杯の物まで。
右ポケットのあたりに、一番大きな、それこそコートの裏側の半分ほどを占めている袋が入っていた。
シュウが取り出したのは、そのうちの小さな一個だった。
彼は土の山を登っていき、その中腹のあたりまで歩いていく。
たったそれだけのことで、わずかに息が上がっていた。
「ふう……」
額の汗を拭ってから、シュウは持っている袋の口を下に向ける。
その中からは、ドロドロとした銀色の液体が流れていく。
明らかに体積以上の容量だ、恐らくあれも『収納袋』だろう。
「おい、あいつなんてもったいないことを……」
「あいつ、ミスリルを――」
彼が土の山に掛けているのは、誰かが言った通り本物のミスリルだった。
うっすらと虹色の光を放っている銀色の金属は、ミスリル以外にはない。
彼はドロドロに溶けているミスリルを、どんどんと投下していく。
あれは……『遅延』か何かをつけた収納袋に、溶解したミスリルを入れているのか?
なんという贅沢な使い方だ。
二つ目の袋、三つ目の袋、そして四つ目の袋……。
合わせて七つの袋を、場所をずらしてはひっくり返していく。
ミスリルを撒き終えると、その上に何かを乗っけた。
ここからだと、角度の関係上それが何かは見えない。
シュウはその七つの点の中心部に立ち、先ほど見た一番大きな袋に手をかける。
彼がそこから取り出したのは――金色の腕だった。
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