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呼び捨て


【side サクラ】



 私はアルノードが手を振りながら去るのを、ジッと見つめている。

 強く握った腕の中には、彼が渡してくれたリュックがすっぽりと収まっている。

 父上以外の殿方からプレゼントをもらったの、初めてだった。


 ぼうっとしながら、彼の背中が遠く見えなくなるまで追いかけ続ける。

 麦の粒のように小さくなり、見えなくなるまで……。


 緊張と恥ずかしさから、彼のことを未だ殿付けで呼んだことに今更ながらに気付き、ちょっぴり後悔する。

 次会った時は必ず、アルノードと呼ばせてもらおう。


「さて、それじゃあ私たちも出ましょうか」


 パンッとその場の空気を仕切り直すかのように、エルルが手を叩く。

 そうだな、たしかにこのまま何もしないでいては時間がもったいない。

 着替えはまた後ですればいいだろう。


 皆で馬車に乗り込み、話し合いを始める。

 本当ならアルノードたちのように強化魔法なり気力による身体強化なりで強引に走った方が早いのだが、私たちには事前に打ち合わせなければならないことがたくさんある。

 各地との連絡や根回しのような諸々の手続きで、彼女たちと話し合う時間がほとんど取れていなかったからな。


「行き先はもう決めてありますよね?」

「ああ、まずはドナシアへ向かう」

「ドナシアというと、二番目にこっちに近い街ですね。一番目のファストじゃないのはどうしてですか?」


 話し合いをするのは、シュウ、エルル、そして私の三人だ。

 エンヴィーとマリアベルは、ポリポリと焼き菓子を食べている。


 む、彼女たちが食べているクッキー……妙に美味しそうだな、お腹が減ってきた。

 あとで一枚もらえないだろうか


「簡単に言えば、ドナシアの方が危険な状況だからだ。それと──まだまだ余力があるファストは冒険者の受け入れにあまり肯定的でなくてな」

「なるほど、激戦地に行ってどさくさ紛れになんとかしろってことですね」

「簡潔に言えばそうなるな」


 私たちはアルノードが『七師』であり、彼が率いる『辺境サンゴ』にトイトブルク大森林からの魔物の侵攻を抑えることができる力があることを知っている。

 だが傍から見れば、彼らはただの金級冒険者クランに過ぎない。

 冒険者は治安を悪化させる戦闘力のあるゴロツキくらいに思っている貴族も未だ多いため、彼らの受け入れをしてくれる街の数はそこまで多くないのだ。



 『七師』であるアルノードがいない以上、『辺境サンゴ』の面々を信じろというのは難しい。

 本当ならアルノードと一緒に行き、領地貴族たちを納得させたかったのだが……他でもないアルノード自身がこれを拒否したため行っていない。


 その理由は、いつトイトブルク大森林からミスリル級上位の魔物が飛び出してくるかわからないからというものだ。

 自分がまず最初に行かなければいけないと、彼は頑なだった。


 サクラたちは運がいいと、彼は言った。


 彼が担当していたバルクスでは、大規模な街の一つや二つは落とせる規模の魔物が現れることは月一程度の頻度であったのだという。


 彼は自分でトイトブルク大森林の魔物の生息範囲を見て、警戒網を張り、対策をすることを最優先にさせると強く主張していた。

 そうしなければリンブルが終わる可能性があると言われれば、私は頷かざるを得ない。


「今のところは小康状態なのだが……アルノードはそれが問題だと思っているらしい」

「へ、何当たり前のこと言ってるの?」


 私の疑問に答えたのは、先ほどまで焼き菓子を頬張っていたエンヴィーだった。


 現在トイトブルク大森林から湧き出してきた魔物たちの進軍は、止まっている。

 斥候がもたらした情報によると、彼らは私たちが放棄した街のあった地域で、縄張り争いを始めているらしい。

 自らの縄張りに入ってきた魔物たちと戦うことに忙しいらしく、今はこちらに注意を向けていないのだ。

 だから私は貴族に声かけをする時間くらいはあるし、その方が今後のことがスムーズに進むと考えているのだが……。


「こっちに来る魔物が少なすぎるって隊長は考えたんじゃない? 森を抜けてこないってことは、魔の森の中で個体数が減り続けるような激戦が続いてるってこと。魔物同士の戦いを続けて強くなった魔物たちが大挙して押し寄せてくれば、リンブルの防衛力じゃ対処しきれない」

「だからいざとなればなんとでもできるセリアと一緒に行ったんだよ。近接戦闘しかできない私たちだと、どうしても相性差があるから」

「……なるほど、大森林の中でも生存競争が行われているというわけか」


 私は揺れる馬車の中で、彼女たちからトイトブルク大森林の話を聞き続けた。

 にしても彼女たちも、とんでもない戦いを続けてきたのだな……。

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