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ダッシュ!

日間総合3位!

ここまで来れたのは皆様のおかげです、本当にありがとうございます!


 今回、馬車は用意していない。

 ぶっちゃけ全力ダッシュした方が早いからな……その分疲れはするけれど。

 強化魔法を使うにしろ、気力で身体を強化するにせよ、馬車で行くよりずっと速度が出る。

 シュウやセリアはスタミナがないので、誰かがおぶる形にはなるだろうけど。


「さて、侯爵に加勢すると決めたからには、時は一刻一秒を争うことになる。俺たちが頑張れば、その分だけ王党派の被害が減る。まぁとにかく、急いで魔物をやっつけろってことだな」

「あはは、そういうことなら余裕余裕!」

「戦いは、任せて」


 基本的に、こいつらに難しい話はしない。

 戦いに関してならいくらでも頭脳を振り絞ろうとするのだが、それ以外のことは全部俺任せにしやがるからな。


 ……もしかして、俺が応えてしまっているのもよくないんだろうか。

 なんだか子供をしつける親御さんの苦労が少しわかった気がするぞ。


「とりあえず、優先度の高い最前線には俺とセリアが行って敵を蹴散らす。エルル率いる本隊には、防衛ライン付近で、侯爵の指示に従って転戦してもらうぞ」

「はいっ! 私たちの持ち場が終わったらすぐにそちらへ向かいます! 魔道具の設置なんかにはシュウが必要でしょうし」


 今回、クランとしては二つに分かれて行動をすることにした。


 エルル率いる本隊には、一般的な冒険者として各地での防衛戦に参加してもらう。

 エンヴィーもマリアベルも元百人隊長なので、人を遣うことには慣れている。


 彼女たちは見た目もいいし、おまけに強い。

 戦乙女たちの獅子奮迅ぶりを見て、奮い立たない男などいない。

 状況が劣勢だろうが、挽回して男を見せようとしてくれるはずだ。


 彼女たちが各地を回っている間に、俺とセリア二人だけの別働隊は、一直線に敵地の最奥へと向かう。

 この中で多数の魔物相手の戦力を効率的に削れるのは、俺とセリアだからな。

 それにセリアの力をリンブルの人たちに見せるのは、まだ時期尚早だろうし……。


 なのでとにかく、俺たち二人は周りが魔物しかいない奥地まで向かうことを優先させてもらう。

 そこから先は、バルクスでやってきたのと同じやり方でいくつもりだ。


「僕はついていかなくていいんですか?」

「ヤバい敵がいたら死ぬかもしれんし、俺たちがある程度間引いて安全を確保したら呼ぶ。セリアの使い魔を飛ばすから、それを合図にこっちに来てくれ」

「了解です」


 シュウが必要なのは、そもそも魔物避けや魔道具の整備ができるのが俺とこいつだけだからである。




 魔物が寄りつかなくなるポプリや『幻影』や『欺瞞』を持つ魔道具を大盤振る舞いして、魔物の侵攻経路を限定させる。

 そしてそこにセリアが出せる全自動迎撃式の悪魔やアンデッドたちを置いておき、事前に相手戦力を削っておくのだ。

 そこから漏れ出てきたり、そもそも想定経路から外れてくるようなイレギュラーを相手していく。


 これがセリアと組んだときの、バルクスでのやり方だった。

 俺たちが無理せずになんとかならないかと改良を重ねた結果、こういう手法になったのだ。


 トイトブルクの魔物とバカ正直にやっていてはこちらが持たない。

 魔物は湧くように出てくるので、やらなくていいところでは適度に手を抜かないと、そもそも処理が追いつかないのだ。


 今なんか大隊のメンバーもほとんど揃っていないので、いくらデザントより隣接している地域が狭いとはいえ、普通のやり方だと守り切れない。


 エルルもエンヴィーもマリアベルも、あとここにはいないライライなんかも、戦い方としては個人戦闘型に入る。

 強力な魔物と戦う分には彼女たちの方が有利なのだが、逆に大量の雑魚を一掃するのには向いていない。

 一体一体トドメを刺さなくちゃいけないからな。

 雑魚を蹴散らすのは、セリアのような広域殲滅型の仕事である。


 まぁ何事も、得手不得手ということだ。

 セリアはゴリゴリの死霊術士でスタミナも皆無だから、事前準備無しで模擬戦でもしようものなら、現在の『辺境サンゴ』では最弱だし。


 一応俺も広域殲滅はできるが、今回はセリアのサポートをメインにして動く予定。

 トイトブルク大森林の魔物たちとの戦いでは、いざという時の不測の事態というのが本当に起こりやすい。

 本気を出さなくちゃいけないような事態には、なってほしくはないところだな。


 ちなみに俺はタイプとしては万能型で、シュウは後方支援型だ。

 この分類は、大隊を百人隊規模で効率よく運用するために俺が作ったものだ。

 どんな戦い方かをざっくり理解するだけで、戦力配置がかなり楽になるんだよな。

 今後クランとしてやっていく時にも、きっと重宝すると思う。


「あ、ああああ明るいぃ……太陽ぉ……」


 セリアは真っ黒なフードを目深に被り、完全に顔を隠したまま四つん這いになっていた。

 ブルブルと震えながら、か細い声を上げている。


 セリアは正体がヴァンパイアなんじゃないかと疑うほどに陽光を嫌う。

 暇さえあればすぐ影とかに入ろうとするし、基本的に屋内大好きな超インドア派だし。


 俺はセリアを肩に担ぎ、そのまま『辺境サンゴ』のみんなに頷いた。

 みな言わずともわかっているので、黙って頷きを返してくれる。


 実は、今回の作戦では俺が一人で突貫しセリアはエルルたちに同行させるという手もあった。

 それを選ばなかったのは、セリアの使う魔法が限りなく黒に近いグレーなものだからである。

 素材に血をふりかけてアンデッドを召喚したり、新鮮な死体を使って悪魔を召喚したり……初見の人は間違いなく彼女に良い印象を抱かない。


 元々俺がこいつを大隊にスカウトしたのも、その戦闘スタイルのせいで他の隊でイジめられ、便所掃除をやらされてたのを見かねてっていう理由だったしな。

 実は便所掃除が暗くて汚いから楽しかったと後から聞かされた時は、ちょっと引いたなぁ……。


「サクラも、来るのは俺たちの合図が来てからにしてくれ。それまではエルルたちと一緒に行動してくれると助かる」

「ああ、わかっている。今の私が行っても、アルノード殿のお荷物になるだけだからな」


 サクラは何故か俺と同行すると言って聞かなかったが、説得の末彼女にはエルルたちと一緒に村や街の防衛に出てもらうことになった。

 余所者だけだと不信感を持たれるだろうから、見目麗しく家柄もいい彼女に民心を慰撫してもらうのである。


 でもわざわざ危険な最前線に出向こうとするなんて……いくらなんでも自己犠牲が過ぎる。

 いや、向上心が高すぎるのかもしれないな。


 けれど実は、サクラの存在って大事なんだよな。

 俺たちと侯爵の蜜月を示す状況証拠になるわけだし。


 だからこそ、俺は心配なのだ。

 今後を考えるとサクラを失うことは許されないが、彼女がトイトブルクの魔物と戦うのはまだ早い。

 いくらなんでも危険すぎるし、もし彼女が隊員だったとしたら俺は許可を絶対に出さないだろう。


 でも、サクラって変なところで頑なだからな。

 さっきから妙に暗い顔をしているのも、俺がデザントの貴族と話をしていたからだろうし……俺ってそんなに、信用ないのだろうか。


「ち、違うっ、そうではないのだ! ただ……もし何かあればアルノード殿はどこかへ行ってしまうかもしれない。さっきそう、思ってしまったから……」


 どうやら思っていた言葉がそのまま口をついて出ていたらしい。

 慌てた様子のサクラを見ると、少し軽率だったかという気がしてくる。

 彼女からしたら、リンブルの貴族と俺がどんな話をしていたのか、色々と想像してしまってもおかしくはない。


 俺は少し頭を悩ませ、なんとなく背負っているリュックに触れた。


 ……あ、そうだ。

 どうせなら今、渡しておこう。

 落ち込んでいる気分が少しは良くなってくれるかもしれないし。


 俺は中から新たな『収納袋』を取り出し、不思議そうな顔をしているサクラに渡す。


「これは……?」

「とりあえずサクラに使えそうな装備をいくつか見繕っておいた。出世払いでいいから、戦うときはこれを身につけておいてくれ」

「あ、ありがとう……」


 なんだか奥さんの機嫌を取るためにプレゼントをする旦那の気分だ。

 ……俺ももう少し、女心を勉強するべきだろうか。

 物を上げたり適当に褒めたり、ダメ男みたいなことばかりしている気がする。


 サクラはキュッと『収納袋』を握りしめて、顔をうつむける。

 その耳は、ほんのりと赤く染まっていた。

 思っていたよりずっと女の子らしい反応に、むしろ俺の方が戸惑ってしまう。


「ジー……」

「じとー……」

「む……」


 エルル、エンヴィー、マリアベルの百人隊長三人娘が、何か言いたそうな顔をしながら俺のことを見つめてくる。


 ……なんだよ、お前らが使ってる『ドラゴンメイル』の方が、今あげたやつよりよっぽど上等だぞ。

 そんなことわかってるだろうに、なぜそんなに物欲しそうな顔をする。


「アルノード殿、その――」

「――じゃ、じゃあな! みんな、またあとで!」


 俺は三対の視線に耐えきれなくなり、全力疾走でこの場を後にすることにした。


 か、格好悪ぃな、俺……。

 多分こういうところが、モテない原因なんだろうな……。

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