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マリアベルの模索


 『辺境サンゴ』幹部メンバーであるマリアベルが担当しているのは、ガンドレアを北に行ったところにあるガルシア連邦が一つ、アンドルー氷雪国である。


 マリアベルは『辺境サンゴ』のクランメンバーを二百人弱引き連れ、アンドルーでの戦闘を担当している。

 兵数がエンヴィーよりも多いのは、こちらの方がより激戦となるとアルノードが判断したからだ。


「デザント軍の処理と砦落としは俺とセリアがやる。純粋に激戦になるのはガンドレアだし、最も政治的で高度な判断を要求されるのはシステナだ。なのでマリアベル、お前にはアンドルーを担当してもらう。少しでも戦後処理が優位になるようにとにかくデザント兵を削り、一人でも多くの沢山の戦時捕虜を救出してくれ」


 去り際のアルノードの言葉が、マリアベルの頭をよぎる。

 きゅっと胸のあたりを掴む。

 そこにはアルノードがもしもの時に自分の裁量で使っていいと託された魔道具、『不死鳥の尾羽』があった。

 瀕死の人間すら完全に回復させてしまうこの魔道具は、作成に人の前にほとんど現れることのない激レアな魔物である不死鳥の素材を必要とする。

 少なくとも今からあと数年の間は、新たに補充することも難しいだろう。


 それほどのものを自分に預けてくれているという事実が、マリアベルの肩にずしりとのしかかる。

 期待に応えなくてはならないと、瞳には闘志の炎が灯っていた。


『デリラ隊、現着。現地人部族と共に現在奪還作戦を実行中』

「兵数の不足は?」

『現在は問題なく対応できております。また何かあれば、追ってご連絡を』

「了解、健闘を祈る」


 報告と同時に地図にメモを書き、戦局を俯瞰する。


 彼女に与えられた使命はこの氷雪地帯であることを利用したゲリラ戦と戦時捕虜となり奴隷として連れ去られそうになっている亜人達の救出である。


 兵が最も大量に集まるのはガンドレアだが、よりデザントに近いアンドルーの方が救出作戦の緊急度が高いのは高い。


 デザントに一度入られてしまえば、救出する難易度は跳ね上がってしまう。

 一対一での戦いならどうとでもなるが、流石に寡兵である『辺境サンゴ』では、軍隊と真っ向からやり合って勝つのは難しいからだ。


 故にこちら側に地の利があるアンドルーで、可能な限り敵を削らなければならなかった。


 本国との距離が近いということは、その分だけ輸送の便がつきやすいということだ。


 ガルシア中から攫ってきた亜人達を運んでいる者たちも多いだろうし、高値で取引をされる奴隷達を守るためには腕利きの兵を用意していることだろう。


 事前の調べで奴隷商達もいることが判明しているため、彼らが抱えている私兵や護衛達と戦闘をする必要がある。


 それらの対応をたったの二百人ぽっちでやれというのだから、アルノードの無茶ぶりもなかなかのものである。


「アリエス、マリエラと合流してポイント9にいる敵部隊を撃破して。その後捕虜を施設Aに収容してから、デリラ隊と合流。ポイント11にある駐屯地を潰して」

『了解!』


 今までマリアベルが直接指揮をしてきたのは、いいところ百人だ。

 それも基本的にはひとまとめにした運用をしていたため、このように部隊ごとに分けて別々の作戦に従事させたことは一度もない。


 最初の頃は、それはもうひどいものだった。

 出したいところに人員を回せず、かと思えばもう一方では人員をだぶつかせてしまう。

 マリアベルが昼夜を問わず駆け回ったせいでなんとかなっている有様だった。


 だがある程度人を動かすことにも慣れてきた。

 今ではそこまでの無様をさらすことはなく、できることを淡々とすることができるようになっていた。


 大量の人員を使いいくつもの作戦を並行してやっていく一番のコツは、無理をしすぎないことだ。

 最初の頃に上手くいかなかったのは、連れて行かれそうになっている人間を全て助けようとしてしまっていたというのが大きかった。


 だが今は、そうではない。

 少々残酷なことかもしれないが、マリアベルは戦う敵と救える人員の数、そして自分たちが負うことになる危険を天秤にかけた上で、安全なものに絞って作戦を完遂させる手法をとるようにしたのだ。


 狩猟民族の出身であるマリアベルからすると、この考え方が一番しっくりときて、自分の力を発揮することができた。


 わざわざ元気に暴れ回っている魔物を狩るよりも、餌を見つけられず弱っている獲物や太っていて動きの鈍くなっている魔物を殺した方がよほど合理的だ。


 彼女は狩りの要領で、デザント兵たちを着実に追い詰めていた。


「さて、そろそろ私も行こうかな……デリラ達だけだと、駐屯地潰しはちょっと荷が重いし」


 だが俯瞰で作戦を考えてクランメンバーに遂行させるだけでは、やはりストレスが溜まる。


 そのためマリアベルはこうして隙ができた時には、自分も積極的に強力な敵と戦うよう決めていた。

 血で血を洗う争いをしなければ、わざわざ紛争地帯にまでやってきた意味がない。


 マリアベルはペロリと唇をなめる。

 彼女の小さな舌は、まるで臓物をすすりでもしたように真っ赤だった。


 マリアベルが夜の陰に紛れて野営地を後にする。

 月夜を反射した彼女の瞳は、獰猛にギラついていた――。

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