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頼んだぞ

「話には聞いていたが……まさか本当に開城しているとは……」


 入り口付近で呆然とした様子でつぶやいているのは、分厚い甲冑を身に纏ったリーダーらしき男だった。

 背丈は俺の胸のあたりまでしかないが、その分だけ身体が横に広い。

 中までみっちりと筋肉が詰まっているからだろう、明らかに重そうな鎧を着ていてもまったく体幹がブレるような様子もない。

 そして隊長格と思しき人間の後ろには、同じようなずんぐりむっくりとした鎧姿の男たちが大量に並んでいた。

 実戦で使っているからだろう、鎧にはくすみや黒ずみも多く、表面はかなり凹凸が目立っている。

 誰一人として欠けることなく鎧を着けることができているのは、恐らく自前で補修ができるドワーフならではというところか。

 数は合わせて千人ほど……これなら今のミンディの外周あたりで野営をしてもらえば、問題なく受け入れができそうだ。


 身体から発する闘気は並大抵のものではない。

 気力察知からもわかるが、多分気力使いだな。 

 後ろにいる者達も気力使いではあるのだろう、それほど強くはないが気の気配を感じる。

 近づいていくと、やはりというかまず最初にリーダーらしき男がこちらに気付く。

 なるべく向こうが圧を感じないように、あまり得意ではない作り笑いを顔に貼り付ける。


「どうも、元デザント王国が『七師』、アルノードと申します。此度は突然の要請に従っていただき、誠に感謝しております」


 悲しいかな、俺が自己紹介をする時はオリハルコン級冒険者クラン『辺境サンゴ』のリーダーというより、元『七師』の方が通りがいい。

 これからデカい仕事を受けていくんなら、やっぱりもうちょっとクランの名前を売らないといけないな。


「あなたが……失礼、ガンドレア火山国、岩の軍の将軍であるベッケンバウムです」


「岩の軍というと……たしかガンドレア四軍の一つである高名なお方、お会いできて光栄です」


 ガンドレア軍は岩・砂・鉄・火という四つの軍に分かれている。

 そのうちの一軍の将軍なのだから、ガンドレアにおいてはかなりの重要人物であるはずだ。

「なになに、アルノード殿の高名と比べればかすみますよ」


「現在捕虜の収容中のため、接収しても使える家はさほど多くなりません。大変申し訳ないのですが、兵士の方にはしばらくの間テント暮らしをしてもらう形になるかと思います。物資の方は用立てることができておりますので、今はこれでご勘弁を……」


「何もやっていない……何もできなかった我々は文句を言える立場ではありません。ありがたく受けさせてもらいます」


 ゆっくりと南下してきた俺たちより早くにガンドレアについていたクランメンバーの中に、ガンドレア陸軍と話を通せるくらいに打ち解けられたやつがいたのは幸いだった。

 なんでも普通の飲み友達だったらしいが……そんな関係でもあるのとないのとでは大きな違いだ。


 今回やってきたガンドレア軍中将であるベッケンバウムさんには、ガンドレア本国との交渉を行ってもらう。


 今俺たちは大量のデザント兵を抱えているが、彼らを一刻も早くデザントに戻さなければ反乱の危険がある。ミンディは抱えている兵が少ない。

 新たにやって来た岩の軍の人間を足しても、まだまだデザントの方が戦力が高いのだ。


 だからさっさと捕虜交換をしてしまいたいんだが、厄介なことにデザントはガルシア連邦を国として認めていない。

 デザントからすると現在行っているのは戦争ではなく紛争であるため、通常の手段では捕虜交換が行えないのだ。


 なので俺なりリンブルなりが間に入って、両者の合意をとりまとめる必要がある。

 そう、たとえば『森や活火山地帯で迷っていたデザント兵をリンブルが見つけたので保護したため、その保護にかかった費用を請求する』といった感じでな。

 そのせいで奴隷として連れて行かれた亜人達を連れ戻すのにもまた別の大義名分を用意しなくちゃいけないし……俺はしばらくはここの交渉でかかりきりになるだろう。


 俺が極めて少ない人数でミンディを落とさなければならなかったのはそれが理由だ。

 正式に休戦もしくは停戦が行われるまで、ガルシアの人間はデザントの攻撃をしのぎ続けなければならない。


 まだデザント兵はガルシア全体の中に六千近い数がいる。

 彼らの撃滅と浚われそうになっている亜人達の回収を停戦と同時に行うためには、俺以外の『辺境サンゴ』メンバーを救出に向かわせる必要があるのだ。


 俺はしばらくガルシアとデザントの間に立って交渉にあたることになるだろう。

 流石にこれは、俺にしかできない仕事だ。


 サクラはリンブルを頼る場合になった時のことを考えて俺の秘書としてそばに置いておき、セリアにはここで悪魔やアンデッドを使い、全体の情報収集と救援そしてアンデッド軍による援護を行ってもらう。

 その他のメンバーは、未だ兵がある程度駐留している地帯に出向いて敵兵を蹴散らしてもらう。


 一人でも多くの人を助け、こんな馬鹿げた戦争をとっとと終わらせる。

 それが俺の願いだ。


 だから、頼んだぞ……皆。

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