ようやく
ラガットの投降命令により、ひとまずミンディにおける戦闘は収束する運びとなった。
どうやら彼の下からの指示は厚いようで、今のところ大きな反対意見は出ていないようだ。
けれど、人的な被害を押さえすぎたことが少しばかりネックになってくるかもしれないな。
デザントの人間からすると、自分たちがまだまだやれるのにいきなり戦闘が終わってしまった形だから。
これが後になってしこりにならないといいのだが……まあ、そのあたりは俺の管轄外だし、ラガットの腕の見せ所というやつだろう。
敗軍の将こそが一番資質を見られるっていうのは、古今東西よく聞く話だしな。
とりあえずまずは捕虜達を拘束しなければならない。
けれど魔導師や気力使いというのを拘束するのはなかなかに大変だ。
鉄の手枷足枷と鉄格子程度では高温で溶かしたり、気力でねじ曲げたりして楽々逃亡ができてしまうからな。
ということで俺たちは現在、ある作業を行っていた。
「はーい、それじゃあこっちの鋳型にいれてくださーい!」
それは――捕虜たちの拘束具作りである。
鉄格子だと壊されてしまうというのなら、話は簡単。
つまり……簡単に壊されないような拘束具を作ってしまえば万事解決なのだ。
鉄だと壊されてしまうというのなら、鉄を噛み千切れるような魔獣の牙や、鉄剣では傷一つつかないミスリルを使って拘束具を作ればいい。
現在ミンディでは、奴隷や重労働から解放されたドワーフたちによる拘束道具の生産が全力を挙げて行われている。
だがいくら彼らが頑張ってもそれだけで生産が間に合うはずもないため、俺たちも人手として協力させてもらっている。
今は鋳型からミスリル製の枷を作っている最中だ。
あ、ちなみに今回の作業の素材はデザント兵達の鎧や軍事物資なんかを溶かし込んで作り
、余った分は俺の持ち出しでやらせてもらっている。
捕虜交渉でたんまり金をもらうことになるだろうから、取りっぱぐれる心配もないし、まあ問題はないだろう。
「なあ、アルノード……」
「どうした、サクラ?」
「ミンディにやってきてすることが連絡と鍛冶仕事……私は本当に、これでいいのだろうか……? そもそも私は一体何をするために、戦いの道を選んだのだろうか……?」
サクラが哲学的な思索にふけっている間も、作業は続いていく。
現在俺たちがしているのは、鋳型にミスリルを流し込む作業だ。
素人仕事だから作りは甘くなるだろうが、基本的なやり方くらいならクランで鍛冶が得意だったメンバーから教わって知ってはいる。
最低限使えるくらいのものはできるんじゃないだろうか。
「よし、できたぞ!」
根が単純だからか、ミスリルを冷やして枷が完成した時には、サクラの機嫌は完全に直っていた。
外に出てしまっているミスリルのカスは集め、危ないので角を削り、表を軽く削ってそれっぽい見た目にしてから、一緒に出来を確認してみる。
……うん、まあなんか気泡みたいのが入ってるが……素人仕事にしては上等だろう。
『収納袋』からもらった完成品を見てみて、俺たちは愕然とした。
「ぜ、全然違うな……」
「うん……俺たちの枷は、あまり強くない兵用のものにしよう」
当然ながらドワーフが作った鋳型には気泡なんてものは入っておらず。
一体何が違うのか、軽く指で叩いた時の感触が全然違った。
彼らが作ったものの方が、俺たちが頑張って作ったものよりも重たいのだ。
少ししょぼんとしながら、ザンギのところへ行くと、微妙そうな顔をされた。
やはりあまり出来は良くないらしい。
まあそんな風に工作に精を出し、色々とダメ出ししたりしながらも満足のいく出来の枷が作れるようになった時のことだ。
ガランガランと崩れかけの城壁から鐘の音が鳴る。
遠見の魔法であるクレボヤンスを使い確認してみると、その先頭にいるのは間違いなく『辺境サンゴ』のメンバーの一人のアカリだった。
その後ろに続くのは、他のクランメンバー、そして見たことのないドワーフによる軍団だ。
どうやら呼んでもらっていた軍団が来てくれたらしい。
ようやく来てくれたか……これで拘束具の作成がもっと楽になるぞ。
……っていかんいかん。ずっと鋳型を見つめ続けていたせいで、考え方が鍛冶職人みたいになっていた。
来てくれたガンドレアの主力軍が来てくれたおかげで、これ以降は話が早く進むはずだ。
戦争というのはそう簡単に終わらないものだが……さっさと終わらせて、リンブルに帰りたいところだ。




