落胆
一応、道中で拝借したデザント兵の格好に着替えてから詰め所へと向かう。
当然ながら入り口には二人の衛兵が立っていた。
この格好で、相手の判断が少しくらい鈍ってくれるといいんだけどな。
「なっ、おい貴様、所属を名乗――あがっ!?」
「お前、何を――うぐっ!?」
近付けるだけ近付いてから、気力を使い身体のギアを上げる。
そして一瞬のうちに近付く、思い切り腹に蹴りを入れた。
そのままの勢いでもう一人の兵士の胸を殴り、一撃で昏倒させる。
ここにいるのはデザントの兵達の中でもかなり上位の人間だ。
できることなら捕縛をして、身代金をせしめておきたい。
とりあえずボコボコにして意識を失わせてから、くるりと二人をひっくり返す。
うつ伏せになった彼らの口を塞ぎながら手と足の指をボキボキに折ってから、回復魔法を使って歪な形に繋げ、再度折った。
応急的な処置だが、二人は失禁して意識を飛ばしてくれる。
これでしばらく起き上がることはないだろう。
魔法使いというのは、捕虜にするのがなかなかに難しい。
ただの兵士と違って腕や足を縛って行動の自由を阻害したところで、魔法は普通に使えるからな。
なので魔法使いを無力化させるためには、大量の魔力を消費するタイプの魔道具で魔力抜きをしたり、相手を魔法が使えない状態にしておくという一手間が必要だ。
だが今はそんなに手間をかける余裕がないので、適当に骨を折っておく。
痛みに耐えて魔法を使う訓練をしている奴も結構多いので(俺もそうだし)、それに加えて指を無理矢理歪な形で繋げることで魔力の流れを乱して魔法が上手く使えない状態にする。 中へ入り、敵を無力化していく。
「――しっ!」
「ぐっ……きゅう……」
手刀を首筋に打ち、意識を飛ばす。
そして先ほどと同じ手順で再び動けぬようにしてしまう。
入り口の衛兵を入れてこれで六人目だが……弱い。
デザントの奴らがあまりにも弱すぎる。
隠蔽の魔法を使い気力も最大限抑え気配を殺しているとはいえ……今のところまったく気付かれる様子がない。
魔力も気力もまともに感知できないとは……嘆かわしい。
魔力量は多いんだが、そもそもの魔法の使い方がなってないというやつばかりだ。
これなら問題なくガンガン先に進むことができそうだ。
こんな奴らばかりだとわかっていたら、練習がてらサクラにも同行を頼んだのになぁ。
その後も作業のようにサクサクと敵を気絶して再起不能にしていく。
やはり歯ごたえのない奴らばかりだった。
デザントの魔法使いの質が下がったのかと思ったが、どうやら違うようだ。
泥沼だが、形勢は有利なので勝つことだけはできそうなガルシアとの戦争。
こんなものに首を突っ込んで悦に浸っている奴らのレベルが、所詮はその程度ってことなんだろう。
全員を無力化し、最後の部屋にやってきた。
一応ノックをしてから、中に入る。
中に居たのは高級そうな椅子に立っている中年の男だ。
恐らく彼がラガットだろう。
彼だけは一筋縄ではいかないだろう。
魔法使いというのは、年を取れば取るほど弱くなるわけではない。
たしかに魔力量は減り瞬間的な判断は遅くなるが、老練な魔法使いは若い魔法使い以上の戦働きをすることも多いのだ。
「……な、何者だっ、貴様! 我が兵の尽くを無力化しおって」
「オリハルコン級冒険者クラン『辺境サンゴ』代表、アルノード」
「アルノード!? ……そうか、お前があのアルノードなのか……デザントを切り捨てた、裏切り者め!」
「自分は義理は通した。先に裏切ったのはそっちだろう?」
「白々しい、貴様のせいで我が国がどれだけの損失を出したとっ――!」
こちらを見上げる表情は憎々しげで、臨戦態勢に入っていた。
中腰になっており、いつでも動ける状態だ。
にしても、やっぱりデザントだと結構好き勝手言われてるんだな……まあなんとも思わないけどさ。
当然ながら、まともに取り合うつもりもないし。
その後も何度かやり取りをするが、ラガットは典型的なデザント貴族だった。
やはり物理的にわからせるしか方法はなさそうだ。
説得するより、ラガットの心を入れ替えさせた方が手っ取り早い。
「さて、あまりこういうのは得意ではないんだが……今からあなたの心を折らせてもらうことにしよう」
流石に方面軍司令官相手に手加減するほどバカじゃない。
さっさと勝負を決めればその分被害も減る、最初から全力でいかせてもらうぞ。
俺は魔闘気を使いそのままオリハルコンソードを全力で振り抜いた――。




