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城壁

「おおっ、こいつはかなり派手だなぁ」


 俺が見ているのは、ガラガラと音を立てて崩れていく城壁だ。

 さながら積み木崩しを見ているようで、なんだか子供心がくすぐられる気分になってくる。

 本来城壁とは壊れることを想定して、中に幾つか崩壊を防ぐための支柱や隔壁を用意しておくものだ。

 けれどミンディの城壁にあるはずのそれらの予防措置は、まったくといっていいほどに意味をなしていなかった。

 というか、建築に携わったドワーフ達が意味をなくしてしまっていたのだ。


 俺が想像していた以上に、彼らのデザントへの悪感情はひどかった。

 なので彼らは俺が何かを言うよりよっぽど早い段階で、デザントに反旗を翻すための工作をしていたのだ。

 ドワーフ達は素人目にわからないように巧妙な手抜き工事を加えており、ミンディの内部にいくつもの仕掛けを施していた。

 構造上の結節点になるところに小さな穴を空けておいたり、支柱の内側に使っている鉄を気泡の大きい荒い銑鉄を使ったり、etcetc……。


 外からするとがっちりとした城壁も、叩くところを叩けば脆い造りになっていたのだ。

 なんでもデザントの人間は魔力的な反応を見て確認をすることや、戦闘に使用する部分の強度に関しては妥協をしないが、魔法と直接の関わりのない金属の精錬などに関しては、あまり詳しく見ていないのだという。

 来ているのは職業軍人がほとんどだろうから仕方のないこととはいえ、ゾッとする話だ。

 製作面では魔法と魔道具に偏重してしまっている俺からすると、結構耳が痛い。


「けど完全に崩れたわけではないな。崩壊してるのは大体……全体の半分ってところか」


 だがデザントの人間も、流石に完全に工事を敵国の人間任せにするほどバカじゃない。

 城壁の基礎となる部分に関しては、崩落することなく上から来る瓦礫をしっかりと抑え込んでいる。

 恐らくは城壁の素材自体に付与魔法を施し魔道具化しているんだろう。


『城壁が壊れた、各員残敵の掃討と援護に移れ』

『『『了解っ!』』』

 

 ミンディの反抗勢力には魔道具類を回しているし、『辺境サンゴ』のメンバーでも十分対応はできるだろう。

 俺は残る処理は彼女達に任せ、『サーチ&デストロイ君三号』と気力感知を併用しながら、本丸を探しに行くことにした。

 最終的にたどり着いたのは、城壁近くの詰め所だ。

 そこには軍旗が翻っており、内側からいくつもの強力な魔力反応がある。


 あの旗は俺の記憶違いでなければ、対ガルシア戦の方面軍司令官であるラガットのものだろう。


 ラガットを捕らえれば、デザントとガルシアの戦争事情は大きく変わる。

 方面軍司令官の身柄交換となれば、向こうも交渉に応じざるを得なくなる。

 そうなれば現在一方的に勧告を叩きつけられただけであるガルシアに、デザントと交渉する窓口ができる。


 軍務大臣のエオルツならまず間違いなくシカトするだろうが、軍務総監のラッフェルハルデ卿あたりなら話を聞いてくれる目もあるだろう(ちなみにややこしいが、デザントにはトップである軍務総監とは別に軍務大臣という職が存在している。めちゃくちゃざっくり言えば軍務総監は軍そのものを統括し、軍務大臣は軍務に関する人事権などを持つものの、基本的には名誉職の側面が強い)。


 ラッフェルハルデ卿経由で第一王子のバルドなりプルエラ様なりそのあたりの重要人物と接触を持つことができれば……戦争終結も、不可能ごとではなくなるだろう。


 まあ、なんにせよ今はまだ捕らぬ狸の皮算用だ。

 そこらへんの詳しいことを考えるのは俺ではなくてガルシアのトップたちになるだろうし。

 とにかく今の俺がするのは、これ以上デザントとガルシアの被害が出ないうちに、このミンディの戦いを終わらせることだ。


 ラガットのキャリアはここで終わってしまうかもしれないが……両国の友好のために大人しく捕まってもらおう。


 しかし殺すのもマズいが、このまま降伏を訴えかけても上手くいくかは正直疑問だ。

 デザントの貴族っていうのは、基本的に家の伝統にあぐらをかいて高圧的なやつらが多い。

 なんとかして素直に屈服させたいんだが、さてどうしたものか……。

 少し考えてから、うんと頷く。

 よし、一度ボコボコにしてやろう。

 敵わないとわかれば、むやみに反抗することもないだろうし。

 というわけで俺は軽い足取りでラガットを捕縛しに向かうのであった。

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