ザンギ
俺が最初に治したドワーフはザンギといい、このミンディのドワーフの代表のようなことをやっているらしい。
代表があんな風に放置されてていいのかよと普通にビックリしたが、ザンギは既に十人目の代表で、どうせいくらでも代わりはいるから問題がないのだという。
代表には中でも信望篤いドワーフが選ばれるというだけで、別にまともな待遇にありつけるというわけでもなく、他の者たちと同じ待遇で扱き使われる。
替えなんていくらでもいるからと使い潰されているせいで、まともな扱いを受けなかった頭がガンガン変わっているという状態なんだと。
最初は選ぶ人間を間違えたと思ったが、必要な情報は簡単に集めることができた。
結果オーライというやつだろう。
ドワーフたちのデザントに対する敵愾心はかなり強く、ぺらぺらと大切な情報を話してくれるのはありがたい。
「わしらは奴隷のように扱き使われ続けておる。戦場ではなく砦の建設予定地で死んだ同胞の無念はいかほどか……」
デザントは人間至上主義と異種族の排他を謳っている。
そもそも自分たちは選ばれた人間だという意識もかなり高く、属州出身の二等臣民たちすらデザントの人間と認めていない者も多い。
人類が異種族の上に立つための聖戦を自称する彼らからすれば、亜人などどれだけ潰しても痛くも痒くもないといったところか。
もちろんこれはデザントの総意じゃない。俺は以前から亜人に対して特段思うところもなかったし、そういった教義に顔をしかめる人間も多い。
けれど戦争をするためには、大義名分というやつが必要だからな。
(焚きつけるようで悪いが……ドワーフたちやガンドレアの人間を利用しない手はないな)
ミンディの中にいる亜人達は相当に酷い扱いを受けているらしく、反感はかなり高い。
けれど魔法や気力の技術で先を行かれているデザントの兵を相手にしても勝負の目は見えているため、わざわざ失敗に終わる反乱をすることもなかろうとみな黙って耐え忍んでいるということだった。
反感がかなり高まっており、そろそろ爆発してもおかしくない状況下。
であれば答えは単純だ。
――俺が魔道具を与え、彼らに反抗するための矛を手渡してやればいい。
そうして内から崩し、同時に健在であるガンドレア兵やゾンビを使い外からも崩す。
頑強な門さえこじ開けてしまえばこっちのもんだ。
タイミングを間違えないように、慎重に取り組む必要はあるだろうが……大体の道筋が見えてきたぞ。
脳内でシミュレーションを重ねながら、そろばんを弾いていく。
まず最初に行うのは……デザントにバレないよう防諜体勢を整えた、レジスタンスの結成だな。
「ザンギ、もし力があったとしたら……デザントの連中に一泡吹かせてやりたいと思うか?」
「そんなもん、当然じゃわい! 一泡も二泡も食わせて、今までされたことを倍返ししてやるとも!」
「そうか、それなら話があるんだが……」
俺はザンギに酒と武具の提供をする旨を伝え、自分の正体についても明かしてしまうことにした。
工作期間を長く取るためには、なるべくスピーディーに話を続ける必要がある。
「まさかあんたが、あの『怠惰』のアルノードとはの……」
俺が作った魔道具を見せれば、ザンギはあっという間にこちらを信じてくれた。
こういう時に、ネームバリューがあるのはありがたい。話が早く済むからな。
「なんにせよそれならわしらにも、やり用はあるか……」
髪の毛よりも長い髭をしごきながら、ザンギも目をつぶって何かを考え始める。
しばしの後に、ザンギは頷き、俺へ手を差し出してきた。
互いに握手と視線を交わす。
それなら早速今後の話をしようとした時、ザンギは口の中をもごもごさせてからこんな質問をしてきた。
「こんな前線まで来ているというのに……お前のどこが『怠惰』なのだ?」
たしかに……言われてみればその通りだ。
俺って他の『七師』の奴らなんかより、よっぽど働いているような気がする……。




