回復魔法
ミンディの中に入ることは、比較的簡単にできた。
ゾンビをある程度蹴散らした段階で跳ね橋が下ろされ、冒険者も兵士も関係なく雪崩のようにミンディに流れ込んだからだ。
どうやら『通信』の魔道具で確認したところ、他の皆も無事に潜入に成功したらしい。
流石にゾンビに襲われてパニック状態になっている軍団の人員を一人一人確認するだけの余裕はないだろうという読みは当たった形だ。
ここから先は、タイミングを見計らいながら動く必要がある。
まず最初にしなくちゃいけないのはミンディの中がどんな風になってるのかと、ミンディに駐屯してる軍団の確認だな……。
「うぅ……」
野戦病院のようになっている宿舎を抜けていく時、呻き声が聞こえてくる。
この惨状を作ったのは俺なので、正直なところ胸は痛む。
こればかりは何度やっても慣れないとも思う。
けれど世の中というのは不条理で、弱肉強食だ。
一度戦争が始まってしまった以上、ガルシアがやられないようにするためにはデザントに痛打を与えなくてはいけない。
せめて恨むなら、セリアではなく彼女に命じた俺を恨んでほしい。
色々な思いを抱えながら歩いていくと、宿舎からあぶれたところにいる集団が目に入った。
見ればそこにいるのは、デザント兵ではなくドワーフたちだった。
どうやら傷は昨日今日できたものではないらしく、膿んでいたり、傷口から虫が這い出したりしている。
まともに手当を受けられていない証拠だろう。
見ればドワーフ兵たちは、みな似たような状態に陥っている。
やはりデザントはドワーフ兵たちを、完全に使い潰すつもりなのだろう。
同士討ちで少しでも数を減らしてくれればという考えが、透けて見えるような気がした。
俺は少しだけ悩んでから、彼らとコンタクトを取ってみることにした。
「失礼」
「……なんだ? 人間様が俺達ドワーフに何のようだよ」
「もし良ければ、俺に手当てをさせてもらえないだろうか」
「なんだと?」
ドワーフの男たちは、完全にこちらを疑ってかかっている。
これは恐らく、まともに話をしても通じないだろう。
なので論より証拠ということで、相手の同意を得る前に実際に治療をしてしまうことにした。
正直偽善だと思うし、相手の心理的なバリアを剥ぎたいという打算的な考えもある。
けれど全てを戦場の習いだと割り切れるほど、俺は大人ではない。
目の前で死にかけている人がいれば治したい。
矛盾しているようだが、それも俺の紛れもない本心でもあった。
まず最初に浄化を使い虫や菌の類を殺し、患部に回復魔法をかけていく。
上級の回復魔法であるエクストラヒールを使えば、治すまでにかかる時間は五秒にも満たなかった。
みるみるうちに治っていく傷を見て、ドワーフの男たちがあんぐりと口を開いている。
「おいおい、嘘だろう……」
「衛生兵からも匙を投げられたってのに……」
そのまま他のドワーフたちも治していくと、こちらにかかる疑いの視線は消えた。
周囲のドワーフたちからも、視線を感じる。
治すのは構わないのだが、この場所で目立ってしまうのは正直あまりよろしくない。
「少し話を聞きたいんだが……場所を移さないか? なるべくならデザントの奴らに聞かれないような場所だと助かる」
「……ああ、任せておけ」
俺が最初に治した髭もじゃのドワーフが、ドンッと胸を叩く。
そして……。
「げほっ、げほっ! ……ああ、強く叩きすぎて死ぬかと思ったわい」
めっちゃむせた。
こ、この人で大丈夫だろうか。
俺はもしかすると、人選を間違えたのかもしれない……。




