ゾンビ
要塞は鋼鉄製、だがよく見ると鉄製にしては色合いが鮮やかだ。
恐らくミスリルかなんかの合金を使っているんだろう。
遠目でみるだけでもなんらかの効果が付与されているのがわかる。
あまり近付けないし、近付きたくないところだな。
魔力波をブレさせたり隠蔽したりして持っている魔力を隠すこと自体はできるが……それ自体が何かやましいことがあるということの証明になってしまう。
魔法使いの中には自身の魔力を隠す人間もいるが、悪目立ちするのは間違いない。
「どうする? 壁を凹ませながら、無理矢理上るか?」
「いや、それは止めた方がいい」
「そ、そうか……いい考えだと思ったんだが……」
サクラの脳筋意見は即座に却下。
ただ、悲しそうな顔をしていたのでフォローを入れることも忘れない。
魔法開発が進んだデザントにおいて、魔法という矛が物理的な盾を上回ってしまって久しい。
デザント式の設計思想から考えるに、恐らくは要塞自体を堅固にするのではなく、侵入などを知らせる『警報』や『魔力感知』などの機能に振った効果が付与されていると考えるべきだ。
となると要塞を無理矢理力業で上ったところで、降りた時に大量の兵士たちに囲まれてしまうことになる。
なんにせよ、正攻法で攻めていくのが手っ取り早いか。
通用門は北に一、南に一。
そこそこ人の出入り自体は多いようだが、中に入るためのチェックは厳重そうで、外には長蛇の列ができている。
ちなみにミンディの監視体制は、デザントの魔道具や魔法兵たちによって築き上げられていた。
遠見の魔法が通らず、防諜対策もばっちりな様子だ。
情報収集は必要だが、外から知ることができる情報には限界がある。
このまま攻略に入ってもいいんだが……さてどうするか。
「ゾンビ軍団で全部押しちゃった方が早くないですかぁ?」
「それをすると民間人にも被害が出るだろう。なるべくならデザントの奴らだけ一網打尽にしたいんだがな」
これだけの要塞を築けるということは、中には相当な数のドワーフがいるはずだ。
大して統制の聞いていないアンデッドたちをゴリ押しで突っ込ませたら、勝てるかもしれないがとんでもない量の被害が出てしまうだろう。
そしてその被害で一番割を食うのは、今後この場所で暮らしていくミンディのドワーフたちになるはずだ。
「だがゾンビ軍団を使うという手自体は悪くないな」
少し手直しはいるだろうが、ゾンビを使うというやり方は素晴らしい。
セリアに騒動を起こしてもらえば、兵たちの意識はそちらに向くだろう。
そうすればどさくさ紛れに俺が侵入することもできるだろう。
味方と相手方にいるはずの亜人たちに被害を出さずに攻略するためにも、やれるだけのことはやらなくちゃな。
というわけでセリア原案、俺監修によるゾンビを使った兵力漸減作戦――『ゾンビあたっく!』を決行するべく、俺たちは準備を始めるのだった。




