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それがいいんだ


 庭園の中は緑豊かで、木々は動物の形に刈り揃えられていた。

 刈り込んで何かの形を維持するのは、結構な手間がかかる。

 どうやら侯爵家の庭師は、相当な腕をお持ちのようだ。


 脇には小さな噴水があり、その近くにあったベンチに腰を下ろす。

 今のサクラは公務から外れているからか、鎧ではなく私服のドレスを着ている。

 フォーマルな場でもないので、意匠もシンプルだ。


「事前に話は通しておいたはずだというのに、いったい誰が来ているのだろう? 侯爵が空けている予定に面会を差し込むとは、少しばかり礼儀がなっていないな」

「まぁ今の俺はただの平民の冒険者だしな。優先順位も高くない」

「何を言っているのだ! アルノード殿がいなければオウカは攫われてしまっていたではないか。そして今だって、その力を私たちに貸そうとしてくれている! 今の侯爵家に……いや、リンブル王国にアルノード殿以上に重要な人物などいないとも!」


 それは……たしかにそうかもしれない。

 元『七師』であり、トイトブルク大森林からの魔物の侵攻を抑えてきた功績があるからな。


 侯爵も俺のことを重要視していると示すために、サクラをずっと側においていてくれるわけだし。


「……それは違うぞ、アルノード殿。私が自分から直訴して父上にお願いしたのだ。アルノード殿の側にいさせてほしいと」

「そ、それはどういう……?」


 思わず勘違いしそうになる気持ちをグッと堪える。

 こんなことは学生の頃から何度もあった。


 女の子の言うおはようは、おはようという意味なのだ。

 女の子の言う一口ちょうだいは、本当にただ一口食べたいだけなのだ。

 それと同じでサクラだって、大して考えずに言っているだけに違いない。


「オウカを助けてくれたこと。そしてあのままでは父から見限られていたかもしれない私を、救ってくれたこと。本当に、感謝しかない。私がこうして今も立っていることができるのは、アルノード殿のおかげなのだ……」


 実家に帰ってきた安心感からだろうか。

 サクラはぽつぽつと、自分の身の上話をしてくれた。


 彼女がオウカを攫われたまま、救出することができなければ、その『聖騎士』としての一生は終わってしまっていた。

 更にもしそうなっていれば、自分だけではなく、母の生活も厳しいものになっていたらしい。


 サクラの母は、オウカの母とは違い侯爵家の側室に当たる。

 そのためか彼女のアルスノヴァ家での立場は、それほど強くはないのだという。


 だが彼女が俺――つまりは元『七師』であるアルノードと渡りをつけることができたことで、現在ではその評価は急上昇。

 王家でもサクラの名が出たらしいから、王からの覚えもめでたいらしい。

 サクラが俺のおかげだと言っているのも、あながち間違いではないみたいだ。


 なるほど……俺がクランのみんなとどうするかわちゃわちゃしているうちに、サクラの方は色々あったんだな。

 なるようになるだろとあまり深く考えていなかった自分が恥ずかしい。

 彼女はそれだけの覚悟を持って、俺と接してくれていたというのに……。


 謝意、ではないが。

 何かサクラに今の気持ちを示せるようなものはないだろうか。

 彼女を物で釣る彼氏みたいだが……俺、女の子の機嫌を取る方法なんて知らないからな。


 何かしてほしいこととか欲しいものはないか、と聞くとサクラは明らかに狼狽していた。


 そんなことを言われるとは思っていなかったらしく、彼女にしては珍しくあたふたとしている。

 そして何かを言おうとしては言い淀み、言いかけては言葉を引っ込める。


 俺の予想では、武具。

 今のリンブルでは手に入らないようないくつもの効果の付与されたマジックウェポンが欲しいと見た。

 だが買うとしたらあまりにも高価なので、おいそれと言い出せないに違いない。


 躊躇っている彼女が覚悟を決めるのを、ジッと待つ。

 後ろの方からは、水が打ち付け合うバシャバシャという音が聞こえてきた。


「あ、あのっ!」

「おう、なんでも言ってくれ」

「アルノード殿のこと……呼び捨てで呼んでも、いいだろうか?」

「……へ?」

「あ、あとできれば話し方ももっとフランクに……」


 え、そんなんでいいの?

 俺のバカみたいな受け答えに、サクラは「それがいいんだ」とだけ言って笑う。


 彼女の笑みに見とれているうちに、先ほどの執事がやって来た。

 どうやら会談の準備が整ったらしい。

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