獣人
「なんだとっ!?」
「貴様――ッ!」
門番の二人が血気盛んにこちらを睨んでくる。
そのまま前傾姿勢になり、戦闘態勢に入り始めた。
ちなみに衛兵だが槍などは持っていない完全に徒手空拳の状態だ。
獣人は己の身体が最大の武器と聞いたことがあるが、どうやら武装は最低限にしているみたいだな。
というか、門番がこんなに喧嘩っ早くて良いんだろうか。
そんなことを考えながら、少し場所を移動する。
後ろの方にある詰め所に控えの衛兵が何人かいる感じのようなので、彼らにも戦いが見えるよう、位置取りを調整させてもらう。
クイクイッと手を曲げてやると、それを挑発と受け取ったのか二人が一気に俺目掛けて襲いかかってきた。
「がるるっ!」
右側の獣人のストレートの軌道を腕を叩いて変化させ、左側の獣人の蹴りを拳を叩き込んで勢いを殺す。
(ほう、素の身体能力はダークエルフより高いのか)
「なっ、こいつ……」
「俺たちの攻撃を――っ!?」
攻撃をいなし、時には反撃も織り交ぜながら冷静に観察を続ける。
獣人と接する機会はあまりなかったので、戦闘能力を知るには良い機会だ。
情報収集も兼ねて、しっかりと攻撃を捌いていく。
獣人たちはダークエルフと異なり、身体強化魔法以外の魔法も使うことができる。
だがその分魔法使いの母数が少なかったはずだ。
気力感知を使ってもほとんど反応がないし、目の前の二人が気力使いではないのは間違いない。
ということはこの二人は今、素の身体能力だけで戦ってるはずだ。
「けど、にしては強すぎるな……もしかして、無意識のうちに魔法を使っているのか?」
気力を使っているのではないのに、二人の動きは明らかに常人のそれを凌駕している。
身体強化魔法を使っているダークエルフほどではないにしろ、疾駆の速度は尋常なものではない。
試しに一度、相手の攻撃を胸に受けてみる。
「うん……攻撃の威力も十分に高いな。オークくらいまでなら、一撃で倒せる」
「なっ、こいつ……」
「攻撃が、効いてねえっ!?」
ダークエルフは身体強化魔法しか使えない代わりに、身体に魔法が馴染みやすく、強化の効率が非常に高いという種族的な特性があった。
また肉体が強化されることになれているため、気力を使いこなせるようになるまでに必要な素地が整っていた。
そして獣人にも、彼らだけの種族的な特徴がある。
恐らくだが彼らは――無意識のうちに、魔力を使って己の肉体を強化している。
魔法を使っているのではなく、魔力を使っているというのがミソだ。
魔法を使いこなすだけの魔力がない者達でも、わずかな魔力を使って肉体を強化することができている。
その分出力もそこまで高くないので、個々の戦闘能力はダークエルフ達に劣る。
だが獣人はダークエルフと比べれば数が多いので、戦士として戦える層が厚い。
もし彼らにもダークエルフ同様、気力に対する親和性が高いのだとしたら……これは結構、戦力として期待できるようになるかもしれないぞ。
もちろん今すぐに即戦力とはならないだろうが、数年後までを見越せば布石として打っておく価値はあると見た。
よし、決めた。
ダークエルフ達同様、彼らにも気力の基礎を叩き込もう。
獣人達は数が多く、また仲間意識も高いと聞く。
彼らがアンドルー全域で気力使いを育ててくれれば、かなり力強い。
砂漠帯と凍土帯で補給部隊を潰せるクラスの気力使いを育ててゲリラ活動を激化させれば、いずれデザントもあまりの被害から撤退せざるを得なくなるはずだ。
既に大局が決まった以上、それをひっくり返すには消極的な勝ちを狙いに行くしかない。
さて、今回はサクサク行こう。
前回は時間をかけすぎたからな。
「今回はお前たちにも手伝ってもらうからな」
「はい、もちろんです」
「えぇ~、またですかぁ~?」
俺は面倒くさがるメンバーたちを説き伏せながら、やってくる獣人たちをボコボコにしていく。
「ぐはっ!?」
「おごっ!」
「あぐっ!」
衛兵たちを叩きのめし、騒ぎを聞きつけてやってきた獣人たちもついでとばかりに倒していく。
そうしてしっかりと上下関係を叩き込んでから、俺は獣人たちを教育すべく、気力について教え始めるのだった――。




