挑発
「さ……寒いですううぅぅ……」
「寒い寒い、火はまだかっ!」
肩を抱くようにしているセリアたちは、砂漠暮らしに慣れて外していた外套を、急いで羽織り直す。
『温度調節』のかかった外套が、急激に下がった体温を元に戻していく。
「砂漠の次は豪雪地帯……ガルシアは飽きないな」
「住む本人達からすると、生きるので精一杯って感じだと思いますけどね」
エルルの言葉に頷く。
ガルシアは基本的に魔法技術に関しては、デザントに大きく劣っている。
今までそれでも攻め落とされずに済んできたのは、やはり環境に拠る部分が大きい。
もちろんデザントの内側での権力争いが長く続いていたり、国王の方針で内側に目を向けていたという部分もデカいけどさ。
「ただ少なくとも、今後システナの戦闘能力は大きく上がるはずだ」
「ダナさんと仲よさそうでしたもんねぇ、隊長?」
「いふぁいいふぁい、口をひっふぁるな」
気力に関しては各国でまちまちと言った感じだ。
立場的には村長代理だったダナさんも知らなかったので、少なくともシステナでは末端の方の兵士たちまでは行き届いていないと考えた方がいい。
だがとりあえず今後、ダナさんを通じてある程度の情報共有は為されるはず。
システナの戦闘能力は、ある程度は底上げされるはずだ。
ちなみに今後の増員も考えて、かなりの量の装備を入れておいた『収納袋』をダナさんには渡している。
彼女率いるダークエルフ軍が、今後も兵站に大きな負担をかけてくれるはずだ。
「今後のことを考えると、アンドルーの獣人たちにもある程度情報共有をしておいた方がいいかもな……」
「そう言えば、アンドルー氷雪国に暮らすのは獣人なのだったな」
「ああ、そう言えばサクラは見たことなかったか」
「うむ。一体どんな見た目をしているのか……今から楽しみだぞ」
アンドルー氷雪国で暮らしているのは、獣人と呼ばれる獣の特徴を持つ亜人たちだ。
人間より寒さに強いので、逃げ込んでいるうちにここらへんに居着いたってことだ。
サクラには知っているような口を利いたが、俺も獣人と会ったのは実は両手で数えられるくらいしかない。
俺たちはとりあえず『サーチ&デストロイ君三号』で生き物の反応を探しながら、先へ進むことにした――。
「これがアンドルーの村なのか……」
歩いていると、遠くの方に村の反応があった。
とりあえずということで向かっていくと、そこには驚きの光景が広がっている。
アンドルーの村は、おとぎ話の中のようだった。
まず外にあるのは土壁ではなく雪を押し固めて作った壁。
そしてそれをコーティングするように『固定』や『硬質化』の魔法が込められている。
中を見てみると、広がっている家々はなんと驚きの雪室である。
崩れないのか、普通に心配になってくる。
近付いていくと門番の男たちがこちらを睨んでいる。
外套を着込みしっかりフードをつけているが、その内側にちらっとケモミミが見えた。
雪で視界が遮られているので模様や形までは見えなかったが、ひょこひょこと動いていて思わず目で追ってしまう。
「貴様ら――」
男たちは槍をこちらに突きつけてくる。
その速度と練度はなかなかのもの。
しかもシステナの時とは違い、二人とも気力を使っている。
獣人は魔法を使える者が少ない代わりに、誰に教わるでもなく自然と気力の扱い方を身に付けるというが……なるほど、噂というのもなかなかどうして馬鹿にならないものだ。
システナの時とは違う。
獣人には獣人のやり方というのがある。
獣の特性を持つ彼らは、基本的に好戦的な者が多いと聞く。
だから俺は敢えて好戦的な言い方をさせてもらうことにした。
「獣人は強い者には従うと聞く。俺はお前らより強いぞ……試してみるか?」




