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奪われたものを


 領都グラウツェンベルクに入ると、俺たちの馬車はノーチェックで中へと通される。

 サクラはここでは有名人らしく、彼女を見た平民たちはぶんぶんと手を振っていた。

 どうやらアルスノヴァ侯爵は善政を敷いているようだ。

 民たちに貴族たちに対する不満もなさそうに見える。


 さて、領都に入ってからしばらく観察をしていたわけだが……とにかく物価が高いな。

 パンも肉も野菜も、ガードナーよりもずっと割高だ。


 グラウツェンベルクは風光明媚な土地だ。

 のどかな田園風景と水車は絵画になるくらいに素敵だし、民たちもさほど高くない税でほどほどに豊かな暮らしをしている街だと聞いている。


 ただ今の彼らは、どこか汲々としているように見えた。

 往来の人通りも少なく、本来の住民達の代わりに冒険者たちが闊歩している様子が見受けられる。

 こうなっている一番の原因は……やはり魔物による被害だろう。


 現在、領都グラウツェンベルクより東方にある侯爵領のうちの一部は、魔物により蹂躙され人の住めぬ土地となってしまっている。

 リンブル全体として見た場合も同様で、魔物の侵略を完全には防ぎきれず、王国は結構な土地を失ってしまっているらしい。


 俺のおかげでデザントがノーダメージだったおかげで、あっちは余力がある。

 対しリンブルは、魔物を押さえつけることに精一杯で余所へ戦力を回す余裕がない。

 そのせいで最近では、デザントとの交渉で強気に出られがちとも聞く。


 現状を打破するためには、強力な戦闘能力を持つ集団はいくらいても足りないはず。

 それが仮想敵国で、少し前まで防衛を完遂していた俺たち『辺境サンゴ』だというのなら、それこそ喉から手が出るほど欲しいはずだ。


 これは本来なら、自分たちの戦力を高く売りつけるチャンスだ。

 野心がある奴なら、奪還した土地を譲り受けて世襲貴族でも狙いに行くんだろうが……俺にあまりその気はない。


 貴族とか、正直もうお腹いっぱいだ。

 できることなら、二度となりたくない。


 それに……真面目に仕事をしていただけとはいえ、今の領都の人間の顔が全体的に暗いのは、俺にも遠因がある。

 俺が手を抜いてデザント側も疲弊してれば、交易の条件なんかはもっとマシになっただろうし。


 いや、俺が気に病むべきじゃないとわかっちゃいるんだが……ままならんもんだよな。

 まぁ、今後リンブルには『辺境サンゴ』ともどもお世話になるつもりだ。


 俺たちもリンブルも、今まで散々ひどい目に遭ってきた。

 だからこそ、奪われたものを奪い返してやろうじゃないか。

 そのための力が、意志が……今の俺たちにはある。



 衛兵たちの案内に従い、俺たちはすぐにアルスノヴァ侯爵の屋敷へと案内されることになった。

 まず驚いたのは、屋敷の造りの頑丈さだ。

 貴族は基本的には、煌びやかだったり華やかな物を好む傾向があるがこの家はその逆。

 全体的に灰色と茶色で、石壁も高く、櫓のような物まで立てられている。

 がっちり頑丈なレンガ造りで、いざというときに魔法を放てるよう狭い窓がいくつも取り付けられている。

 しかもよく見ると『頑健』が付与されており、屋敷自体が一種の魔道具になっていることがわかる。

 まず間違いなく、こういった場所には常設されている『マジックバリア』の魔道具は用意されていることだろう。


 俺はあまり建築には詳しくないが……おそらくこの家の設計思想は、いざというときに立てこもれるような家だ。

 籠城戦でも想定しているのかもしれない。

 屋敷自体も大きいし……ふむふむ、地下に人もいるな、地下施設もあると。

 だとすると結構な人数を収容できるな。

 文字通りの最後の砦としても使える、ということか。


 案内はスムーズで、俺たちは軽いボディチェックだけ受けるとすぐに屋敷の中に入ることができた。

 中へ入ると侯爵がお呼びとのことなので、サクラと一緒に向かうことにする。

 とりあえず『辺境サンゴ』のみんなには、応接室でくつろいでもらうことにした。

 遠慮というものを知らない奴らばかりなので、みな思い思いに過ごすはずだ。



 サクラと二人で屋敷を歩いていく。

 ここは彼女の生家なので、色々なことを教えてもらえる。

 かけてある絵画や置かれている花瓶なんかの説明を受けると、サクラの文化人としての一面が見えた。

 一緒に居るとその騎士然とした態度からつい忘れそうになるが、彼女はめちゃくちゃいいところの出のお嬢様なんだよな。


「こうして二人で話をするのは、ずいぶんと久しぶりな気がするな」

「たしかに、オウカが攫われて以来じゃないか? 基本的には俺の近くにクランメンバーの誰かが居たからな」

「アルノード殿は慕われているものな」


 順路を行っているかはわからないが、なんとなく遠回りに向かっているような気もする。

 多分、サクラも久方ぶりの実家への帰省で浮き足だっているんだと思う。


 雑談をしながら歩いていくと、アルスノヴァ侯爵の執務室らしき場所が見えてきた。

 部屋のドアの前に老執事が立っており、サクラを見るとぺこりと頭を下げた。

 歩いていったサクラは、二三言葉を交わすと戻ってきて不満そうな顔をする。


「どうやら面会中らしい。申し訳ないが、もう少しだけ待っていてほしいとのことだ」

「そうか、まぁ侯爵も忙しい中で時間を作ってくれたんだ。全然気にしてないから大丈夫だぞ」


 特にすることもなかったので、散歩を続けることにした。

 ただ、話し合いを始める前に歩き疲れちゃ本末転倒だよな。


 ……お、庭園が見えてきた。

 あそこで時間でも潰すことにしようか。

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