最後
気力の循環ができるようになれば、あとは鍛錬あるのみだ。
幸い既に魔力による身体強化で効率の良い肉体の強化方法を知っているダークエルフたちは、飲み込みも早く、ほとんど手間もかからなかった。
中でもやはり突出していたのは、ダナさんだ。
彼女は既に、デザントの魔導師部隊を単身で蹴散らせるほどにまで急成長を遂げていた。
ダナさんほどでないとはいえ、皆の戦闘能力も大きく向上していた。
補給部隊の隊長とやったとしても、今の彼女ならばちゃんと戦えるはずだ。
もちろん一番デカいのは、俺が魔法を込めて作り上げた鎧やグリーブを始めとする各種兵装の提供だ。
けど基本的なデザント魔導師の戦闘方法を俺が教えたのも結構デカい。
各属性使いごとに好んで使う魔法とその戦い方ってものがある。
火魔導師は火力を出すために使用までの集中時間が長いからそこを突く。水魔導師の中には回復魔法の使い手が多いがその分火力はそこまででもない。なるべく相手に隙を与えず、一撃で葬り去るようにする……などなど。
その事前知識や基本的な魔法の威力と準備にかかる時間、攻撃範囲や再度の使用のためのインターバル。
そういった物を中でも優秀な者たちに教えていく。
ダークエルフたちはダナさんの指示で、出身が近かったり関係性の近しい人間を一つの班にまとめ、班ごとの運用を行っている。
班をまとめて部隊として運用している班長たちを中心に、必要な知識を叩き込んでいく。
複数人で囲んで、狙いを付けさせないようにすること。全体魔法を使われても攻撃範囲外に出れるような各自の距離の取り方。
デザント兵が使える魔法攻撃は基本的には直線的なものが多いので、遮蔽物などを利用して、とにかく射線を通らないような戦い方を心がけること。
そういった基本的な戦術理解があるかないかで、生存確率は大きく変わってくるからな。
以前リンブルの兵たち向けに、デザント兵のスペックや基本戦術について自分なりにまとめていた経験が活きた。
特に思い悩むようなところもなく、すらすらと教えることができた。
文字が読める者も多かったので、以前俺が書いた教本のうちの何冊かを寄贈する。
きっと彼らなら有効活用してくれるだろう。
彼らは魔力との親和性も高い素晴らしい肉体を持っているが、その戦い方はあくまでも単調だった。
ダークエルフ同士で争いをする時は、それで良かったのだろう。
けれど人との勝負となれば、真っ向勝負ばかりをしているわけにもいかない。
デザントという国と戦うなら、搦め手だろうがなんだろうが使わなくちゃいけない。
戦えない相手に会ったら、尻尾を巻いて逃げ出すことだって大切だ。
俺がダナさんたちと行動を共にするようになってから、既に一週間ほどの月日が経っていた。 今はもう、俺たちが手助けをせずとも彼らだけで戦えるところまでいったと思う。
最低限、面倒は見たと思う。
彼らはある程度気力が使いこなせるようになっており、対魔導師用の戦闘にも慣れてきた。 デザント兵を一対一で相手取っても勝てるだけの実力は身につけたはずだ。
特にダナさんの成長は異常だった。
このまま行けば本当に、魔闘気を習得できてしまうかもしれない、なんて思ってしまうほどに。
……けれど、俺にダナさんたちの成長を見届けるだけの時間はない。
俺たちがここにやってきた目的は、ダークエルフたちを鍛えることじゃないから。
とりあえずの応急処置というか、俺にできることは大体やった。
であれば今後は彼らに頑張ってもらいながら、俺たちはガルシア全体を救出すべく、激戦地であるというガンドレアへ向かうことにしよう。
「明日、ここを出ようと思っています」
いつものように皆と訓練をした後の休憩のタイミング、兼ねてから考えていたことを切り出した。
ダークエルフたちの反応は、当初とはまったくの別物だった。
「行かないでくださいよ! 俺たちの成長も、デザントの連中に泡を吹かすのも、まだまだこれからじゃないですか!」
「そうです! まだほとんど何も教わってません!」
そう言って俺を引き止めようとしてくれているのは、最初は俺のことを人間だと敵視していた奴ら――テッドとアリーだ。
ただしその分ガッツが人一倍あって、何度ボコボコにされても立ち上がってきたっけ。
そんな彼らも、今では行かないでほしいと俺に言ってくる。
実際に実戦をしながらの転戦転戦で、基本的に俺は彼らをいじめ抜いていたが……どうやら気に入られてしまったみたいだ。
「最後まで面倒見れなくて、申し訳ない。でも俺たちと君たちがそれぞれガルシアのために頑張るタイミングが来たってことだよ。全てが終わったら――また帰ってくる。だからそれまでは、お互い達者でやろう」
俺の言葉に、テッドたちは黙った。
そのまま少し気まずい感じで時は流れ。
そしてシステナでダナさんたちと過ごす、最後の夜がやってくる――。
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