気力
「まず気力というのは、簡単に言えば人間の身体の中にある生体エネルギーのことを指している」
「魔力とはどう違うんですか?」
ダークエルフの戦士の抱いた疑問は当然だ。
魔力も気力も体内にあるという点では同じ。
どちらがどう違うかというのは、誰からも教えられなければ理解するのはなかなか難しい。
「簡単に言えば魔力は外にもあるが中にもある。そして気力というのは体内にしか存在しない。魔力は才能に拠る部分がデカいが、気力は努力や鍛錬に拠る部分がデカい」
魔力というのは、魔法を使うために必要なエネルギーだ。
例えば俺が使う魔闘気などのごく一部の例外を除けば、純粋な魔力に使い道はほとんどない。
魔力は魔法へと変換することで様々な効果を持つ。
一つプロセスを挟むので手間はかかるが、その分色々なことができるようになるという利点がある。
対して気力はというと、こいつはエネルギー自体が意味を持つ。
主な効果は循環による肉体の活性化や、肉体の賦活による回復効果。
更に発展させていけばあるいはそれを一部分で留める部分循環によって、一部だけを劇的に強化させることや、気力を全て防御力に回すことで相手の攻撃でもビクともしないというような芸当もできるようになる。
ただしこれは魔法のように応用が利く力ではない。
何か現象を起こしたりはできないし、そもそも己の肉体を使った技しか使えない。
色々と制限がある代わりに、あまり才能を選ばず使える力と考えればわかりやすいだろうか。
「そしてこの気力というのは、極限の状態下が一番伸びる。常日頃の鍛錬や研鑽は、生きるか死ぬかの瀬戸際での戦闘で強くなるための下地みたいなものだ。というわけで……やろうか」
気力を鍛えるには、気力使い同士の全力戦闘が一番手っ取り早い。
なので俺は今回、魔力は使わずに気力だけで戦うことにする。
「魔力強化のやり方で慣れてるところ申し訳ないが、今回は魔法の使用は禁止で頼む。気力の使い方を理解する不純物になりかねないからな」
あちらの強みも封じる形になるが、こればっかりは仕方ない。気力による身体強化と身体強化魔法は相性が悪く、同時に使うことが難しいという特性がある。
魔闘気を使う必要はないだろう。
軽く揉んでやることにしようか。
「――行くぞッ!」
「なっ、速ッ!?」
まずは一番近くにいた奴に向けてダッシュ。
使い慣れている身体強化の方が出力が出るから、気力だけで戦う頻度はそれほど高くはないけど……やっぱりこっちの方が楽だな。
いちいち魔法という形に整えてから使わなくてもいいから、圧倒的に楽だ。
腹にパンチを叩き込む。
インパクトの瞬間、部分循環を使い中指だけを別途で強化。
「――ふぐうっ!!」
防御姿勢すら取れずモロに一撃を食らったダークエルフが、バウンドしながら地面を転がる。
気力によって強化された一撃を食らい、完全に意識を失っていた。
そのまま続けざまに二人目、三人目に接敵。
「なっ!?」
「ひ、ひいっ!?」
「そんな及び腰で――どうするっ!」
部分強化の練習も兼ねて、次は拳の甲、その次は第三関節に気を循環させる。
吹っ飛んでいく男たちを見ながら、首を傾げる。
どうにも上手く力の調節ができてない。
うん、久しぶりだけど……ちょっと鈍ってるな。
魔法にかまけて、鍛錬をサボりすぎたか。
「――よし、まだまだ行くぞっ!」
「畜生、アドーがやられたっ!」
「とりあえず囲んでなんとかするぞ!」
だが流石に戦士ということか、ダークエルフたちは次々にやられていく仲間達を見ても臆することなく向かってくる。
その闘争心に、思わず笑みがこぼれてくる。
食らいつこうとするガッツがあるんなら、大して時間はかからないだろう。
気力を使った攻撃を食らい続けるうちに、気付けば己の体内に何かがあることを感知できるようになっているはずだ。
気力というものを感覚的に理解できるようになるまでには個人差があるが……そこは安心してほしい。
近道なんてものはないが……どれだけ怪我をしても、きちんと回復魔法で治してあげるから。
こうして俺はダークエルフたちに拳を叩き込んでは、意識を失った者たちを回復魔法で癒やしていくという荒行を続けた。
身体強化で既に身体の操作法やエネルギーの循環方法についてある程度の理解がある彼らが、気力を感知できるようになるまでには、それほどの時間はかからないはず。
そんな俺の推測は無事に的中し、修行開始から二時間も経たないうちに、彼らは無事気力を感知できるようになるのだったのだった……。
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