鍛える
とりあえずデザントの兵達を片す役目は、セリア率いるアンデッド軍団に任せ、ダークエルフたちに残敵掃討という形で戦闘経験を積ませていく方式を取ることにした。
ガルシアとデザントは戦争中で国交を断絶しているため、捕虜に関する規定もない。
情報漏洩の観点から考えても、デザント兵を生かしておく必要はまったくのゼロだ。
なので目撃者も一人として残さず、残らず戦場に散ってもらうことにしている。
ダークエルフたちは元々身体強化の効率がかなり良く、魔物などを狩る砂漠の狩人として生活をしていたので金級冒険者――魔物討伐だけで一生困らないくらいの額が稼げるベテラン――相当の戦闘能力は持っている。
ただ彼らだけでデザント兵を相手にできるかと言われると、少々厳しい。
魔法兵が混ざって遠距離攻撃で削られれば、間違いなく死者が出ることになるだろう。
ダナさんに色々と試してもらいわかったのだが、ダークエルフというのは不思議なことに四属性の魔法に対する適性がほとんどゼロに近い。
なので魔法技術を伸ばしてもらうのは厳しい。
それならダークエルフの強みをより活かせる形を目指していくのが一番だ。
彼らの強みは元より強靱な肉体と、高いスニーキングスキル。
それを活かせる形で強化となると、やはり気力操作を覚えさせるのが一番手っ取り早いだろう。
肉体が強靱であれば、気力は使っているうちに伸びる。
というわけで俺はダークエルフたちに一旦休憩を挟むことを了承させ、彼らを鍛えるためのブートキャンプを開催することにした。
それに……気力を使う戦闘法には、もう一段階上がある。
ダークエルフならもしかしたら……俺たち『七師』の領域にまで辿り着けるかもしれない。
「というわけで皆さんには、戦いながら気力の扱いを覚えてもらおうと思います」
「気力……ですか?」
また一つデザントの分隊を潰した日の夜、俺は早速ダナさんたちダークエルフを呼び出していた。
ダークエルフの数は、現在百を超えている。
各地のデザント兵を潰しながら使える人員はほとんど引き抜かせてもらっているので、現在ではダナさんたちの村以外の出身のダークエルフたちも多い。
あ、もちろんダークエルフじゃない普通の人達や、ダークエルフでもそういった血生臭いことに抵抗がある人や老人、子供なんかは保護してるぞ。
魔道具で存在ごと隠しているし、万が一の時に備えてアンデッド達に(鎧を着せてそうだとわからないようにして)護衛させているので、何かあれば対応は問題なくできるようになっている。
『いっぱいハイール君』によって実質的な容量制限がなくなった俺たちがいれば、食糧問題は解決できるしな。
魔物の素材が多めなので肉主体の食事になるのは申し訳ないと思うが、そこは流石に我慢してもらっている。
「……お前、知ってるか?」
「さあ? ただ強くなれるんなら、やってみた方がいいだろう」
ダナさんに率いてもらっているダークエルフたちは、何事もなく村から引き抜いた人たちばかりではない。
奴隷にして連れ去られそうになっていたり、村をなくし逃げ出していた人であったり……その境遇は様々だ。
辛い目に遭った者達は、瞳に闇を湛えながらも強さを渇望していた。
であればそれに強さを与えることに抵抗はない。
復讐には意味があるのだ。少なくとも、本人にとっては。
色々と闇を抱えていそうなメンバーも多いが、今のところ大きな問題は起こっていない。
みな俺やダナさんの指示を聞いて動いてくれている。
砂漠で暮らす彼らは元々仲間意識が強いのと、戦う相手が自分たちを追い込んでいるデザント兵であるというのが大きいんだろうな。
今のところ一つのまとまった集団として機能してくれているから助かっている。
多分、ダナさんの求心力が高いのも大きいんだろうな。
「その気力というものがなんなのか……私たちにはよくわからないのですが」
そう言って手を上げるエルフたちに、俺は気力について教えることにした。
人に直接何かを教えるのなんていつぶりだろうか。
なんだか年甲斐もなく緊張してきた。
魔法と違って気力はどちらかといえば理論より実践の方が大事だから、いきなりだけど彼らの身体に教え込むことにしようかな。




