デビル
「な、なんということだ……」
「神よ、あなたは我々にどこまで試練を……」
「で、デビルかっけぇ……」
アンデッドを見せると、ダナさんたちダークエルフはめちゃくちゃに動揺していた。
そりゃそうだ、いきなり数百数千のスケルトンの群れが現れたら、パニックになるのも当然だろう。
約一名興奮している青年もいたが、あれは例外だ。
とりあえずデザントの補給部隊の襲撃には成功した。
情報が渡らないよう、打ち漏らしがないよう細心の注意も払っている。
魔力と気力で感知してこの周辺に俺達以外の気配がないことを確認してるし、魔道具を使って遠見や盗聴対策もしっかりと行っているからな。
問題がないことを確かめてから、セリアの使役するアンデッドたちに自壊命令を出してしまう。
骨を砕かれたり、弱点である核を砕かれたりしたアンデッド達は完全に沈黙した。
「大丈夫、これは死霊術といってアンデッドを使役する魔法です。あれは俺の仲間が出したものなので、こちらの言うことを聞いてくれます」
懇切丁寧に説明すると、ダナさんたちは落ち着いた。
ダークエルフたちはどうやら伝承や都市伝説なんかを信じ込みやすいらしい。
文明的なものから離れてから長いから耐性がないというか、良くも悪くも擦れてないんだろう。
今後他の集落の戦士達を集めていく際、これは使えるかもしれないな……なんて腹黒いことを考えつつ。
俺たちはとりあえず補給部隊が運ぼうとしていた物資の検分を行うことにした。
デザントからガルシアに向かう補給部隊。
彼らが運ぶ物資は、当たり前だが現地では補給や収奪することが難しいものだ。
なので馬車の中を覗いてみると……。
「力業な輸送ですねぇ……」
袋、袋、袋。
馬車の中に所狭しと敷き詰められているのは、デザント印の『収納袋』の山である。
魔力紋による所有者のロックのかかっていない状態なのは助かった。
開けて中の物を確かめていくと、まあ食料の出てくること出てくること。
これを見る限り、ガルシアでの現地調達はあまり上手くいってないようだな。
そもそも現地の兵を養えるだけの余剰生産もないだろうから、当然っちゃ当然だが。
ダークエルフたちと一緒に食料を一箇所に集めていくと、うずたかく積まれてできた食料の山が出来上がった。
「……」
そびえ立つ食料タワーを前に、ダナさんが絶句している。
基本的に食料と水を切り詰め切り詰め生活している彼女たちからすると、その物量差に思うところがあるんだろう。
でもこれ、どうするか……。
俺たちは皆『収納袋』を持ってるから、正直必要ないんだよな。
性能も俺が作ったものより二等くらい落ちるし。
それなら……袋ごとあげちゃうことにしよう。
うん、それがいい。
「ダナさん、これ要りますか?」
「――ええっ!? それって沢山ものが入る……魔法の道具ではっ!? もらえません、そんな高価なものっ!」
「大丈夫ですよ、俺たち全員これよりいいもの持ってますし。ていうかそもそも、俺『収納袋』作れますし」
「……」
再度の絶句。
ダナさんは白目を剝いてガクガクと震えだしてしまった。
少々刺激が強すぎたのかもしれない。
とりあえず彼女が元に戻るまでに、収納袋に再度食料を詰めていく。
ただ中を確認したところ、収納袋の内容量にはまだいくらか余裕がありそうだった。
ついでに今後のことも考えて、痛みにくい保存食の類もセットでプレゼントすることにする。
使い道がないんだよな、保存食。
俺たちの『収納袋』なら時間経過も止められるから、生鮮食材を入れといた方が料理の幅が出るし。
ぶっちゃけ干し肉と乾パンって、味はお察しだからな。
『収納袋』に食料を詰め直してから、とりあえずダナさんにあげてしまうことにした。
彼女なら、不平等のないように皆に融通させることもできるだろうからな。
彼女が苦心している傍ら、俺はもう少ししっかりと馬車を確認していく。
武器や魔道具の類は中にはなかった。
多分それらはまた別の部隊が運んでるんだろう。
となると次に狙うのは――魔道具を始めとする、ガンドレアを落とすための軍需物資の運搬妨害だな。
多分食料運搬の兵より練度は高いだろうが……なぁに、問題はない。
『七師』を倒せた俺たちなら、なんだってできるさ。




