ついてこい
まず最初に、デザントで突くべきポイント。
それはやはり輜重である。
ガルシアの中へ兵を入れることは容易でも、兵たち全員に食料を行き渡らせることはなかなか難しい。
俺が作って『辺境サンゴ』で皆に渡しているような『収納袋』は、ぶっちゃけかなりの貴重品だ。
デザントの一兵卒なんかに渡せるものじゃないし、最低でも軍団長クラスの人間にしか持っていないと思う。
そしていくら通常より大量の物が入る『収納袋』とはいえ、自分が従えている部下達が行軍中に消費する全ての糧食を収納できるほどの容量はない。
ということはつまり、デザントからガルシア連邦には常に食料品や武具などを運んでいる輜重部隊がいるはずだ。
システナを徹底的に破壊して奴隷狩りをしているのも、そのあたりに理由があるのではと考えている。
自分達の輸送を邪魔できるような奴らがいないよう、一掃しておきたい。
そして受け渡しを終え身軽になった輜重部隊は、金になるものを持っていくくらいの役得はしておきたい。
その結果がダークエルフたちの奴隷狩りなんだろう。
輜重の通るルートは二つ。
陸路と海路だ。
だが現在大星洋を使うルートはオケアノスとデザントで制海権の奪い合いの真っ最中。
俺が知っている限りではデザントが若干不利という話だ。
以上のことから、海路による輸送もゼロではないだろうが、限定的なものにならざるを得ないだろう。
船を使うせいで日時のズレなんかもあるし、長期間の停泊で襲撃される可能性もあるしな。
となるとやはり陸路の可能性が一番高い。
けれど行軍するのが厳しい砂漠地帯で、陸路を行き軍団員分の食糧を輸送するのはかなりの難事のはずだ。
更に言えば食糧事情も決して恵まれているとは言えないので、食糧を現地調達するのはかなり厳しいの間違いない。
だがダナさんから詳しく話を聞いても、そんな大軍がシステナを通ったのは最初の進軍の一回きりだったそうだ。
何かカラクリがあるのは間違いない。
そしてそれを聞き出すには――実際に本人達から事情を聞くのが手っ取り早いだろう。
「――よし、見つけた」
魔力感知に気力感知、両方を駆使してとにかく人の気配を探り続けた。
そして探査の網にようやく反応が引っかかったのは、探し始めてから三日目の夜だった。
「行こう」
俺が歩き出すと、足音が続く。
今回の同行者は、いつもより多い。
マリアベルとエンヴィー、そしてエルル……だけではない。
くるりと後ろを振り返ると、そこには……俺たちとお揃いのドラゴン装備に身を包んだダナさんたちダークエルフの姿があった。
今回、俺が設定した目標は二つ。
一つ目は輜重部隊の撃破。
そして二つ目はシステナたちエルフに再度自信をつけ、俺印の装備や魔道具を使ってもらい、彼らだけでデザントの部隊相手に立ち回れるようにすることだ。
俺たちはずっとシステナに留まっているわけにはいかない。
今こうしている間にも、ガルシア連邦の他の国々はデザントに蹂躙されている。
輜重を潰し続ければ現地の兵たちは干上がるかもしれないが、それを座しているわけにもいかない。
悲劇が起こるのを、黙って指くわえて見ているわけにもいかないしな。
それに向こうのリーダーだってバカじゃない。何回も襲撃をすれば、早々に対策を考えてくるはずだ。
そしてその対策に対して更に有効な手を打つために、彼らダークエルフたちの協力が不可欠、というわけだ。
意気軒昂なダークエルフたち。
故郷を奪われた者、大切な人を失った者、愛する人を奴隷にされた者。
それぞれの事情は違えど、デザント憎しという気持ちは同じだ。
行き場のない気持ちがあるというのなら、それをぶつける場所は必要だろう。
あ、そうだ。そういえば俺、今死ぬほど金が余ってるんだよな。
ダークエルフをポケットマネーでなんとか買えないだろうか。
……いや、偽善だっていうのは自分でもわかってる。
けどさ、それでも何もしないより俺も気が楽になるし、一つの悲劇を終わらせることはできるわけで。
だったらやらない善よりやる偽善だって、俺は思うんだよな。
何にせよ、それはまだまだ先の話。
今はこれから起こる悲劇を未然に防ぐために、一肌脱ごう。
「よし……俺に、ついてこいッ!」
俺はダークエルフ達を引き連れ、デザントの兵たちの元へと向かっていく――。
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