焦らず
夜を越えるまでには、乗り越えなければならないいくつもの関門があった。
皆をなだめながら、なんとかして取り出したベッドの上で皆で一緒に眠ることで、なんとか機嫌は治すことに成功し、次の日。
空き家を使わせてもらってぐっすりと眠った俺たちは、まずは事情を聞かせてもらうことにした。
どうやらダナさんは村の中でも立場がある人というか、村長の娘だったらしい。
そして病に伏せっている父の代わりにこのアシベの村を実質的に切り盛りしているらしい。
生活は基本的には質素で、食料は厳しい環境下でも育つオーツ麦や砂漠の魔物が主。
井戸水も長年もつことは少なく、彼女が小さい頃にこの街にやってきたということだった。
どうやら定期的に涸れてしまうらしい。砂漠地帯に井戸水があるというのはなんだか不思議な気がしたが、これも地脈の影響なんだろうか。
スコールの際に溜め込んだ水や流れの水魔法使いから買い取る水、点在するオアシスなどの水も使いながら、なんとかして暮らしていくらしい。
砂漠は厳しい環境だ。そんな場所で暮らすシステナの民は、基本的には助け合いをしながらなんとかして暮らしているらしい。
なので基本的には村と村の間の距離はさほどないらしい。
魔物が出るために安全な旅路とは言いがたいそうだが、数日もあれば辿り着くことができるようだ。
話を聞いてから、まず俺はダナさんのお父さんである村長ジードさんの臥せっている病床にお邪魔させてもらうことにした。
「エクストラヒール」
とりあえず上級の回復魔法をかけてみる。
ジードさんが倒れているのは井戸水に地脈の影響が出るまでよりも前らしい。
なんでも前から抱えていた持病がひどくなったということだったが……回復魔法でなんとかなるだろうか。
「ん……おお、ダナか」
先ほどまで呻きながら寝苦しそうな顔をしていたジードさんが目を覚ます。
荒かった息は整い、体調は良くなっていそうだ。
「お父さん……体調の方はどう?」
父の変調に喜びを隠せない様子で、ダナさんが尋ねる。
ジードさんはふむ……と少し考えた様子を見せてから、起き上がった。
暗闇に溶け込んでいた長い耳が見える。
もちろんジードさんも、ダナさん同様ダークエルフだ。
「上体を起こせるくらいに元気だな。こんなの、久しぶりだよ」
そしてジードさんはそのまま立ち上がる。
その場で軽くステップを踏んでから、一つ頷いた。
「それどころか、さっきまで感じていたはずの節々の痛みが完全に消えている。どうしたんだいだな、高い薬でも使ったのかな?」
「お……お父さんっ!」
ダナさんが立ち上がったジードさんを、ひしっと抱きしめる。
少しよろけた様子のジードさんは、苦笑しながら愛娘を抱きしめた。
感動の親子の抱擁だ。
どうやら俺の回復魔法でなんとかなったようで、一安心である。
「あ……ありがとうございます、アルノード様!」
「いえいえ、自分にできることをしただけですから」
気付けばダナさんが俺を様付けで呼んでいた。
涙で濡れたその目は、キラキラと輝いている。
とりあえず井戸水の問題と村長不在の問題にはかたをつけることができた。
これでようやく次のステップに移れる。他の村の情報を手に入れつ、システナの現状についての情報収集。
それが済んだら、とにかくデザントを引っかき回せる何かがないか、その端緒を探るところまでなるべく速いうちに行っておきたいな。
なにせガンドレアが落とされたら、そのままガルシア連邦は瓦解しかねないからなぁ。
俺たちに大した時間は残されていないのだから、焦らずとも急がくちゃ。
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