動き出す世界
ガルシアはgarushiaの八つの頭文字を持つ国が集まってできた連邦だ。
小さな国同士がいがみ合ってまで協調する理由。
それは単に、強力な外敵が外にいるからに他ならない。
「もはや我らが命運も尽きようとしている、か……」
ガルシア連邦が盟主である、ガンドレア火山国。
その宗主は、人ではなくドワーフであった。
ドワーフは人よりはるかに分厚い皮膚と丈夫で強力な身体を持ち、活火山の近くでも問題なく活動をすることができる。
かつて人相手の戦争をして敗北した彼らが流れついたのが、ドワーフでなければとても住めないような火山がいくつも存在するガンドレア火山国であった。
ガンドレアに存在するドワーフたちを束ねる国の代表は、その名をゴズという。
かつては長い名を持ち、己の里に誇りを持っていたドワーフたちは、既に己の名に刻まれていた、故郷を示す語を消し去っている。
プライドがズタズタにされ、里を焼かれ、それでも逃げて逃げて、辿り着いたのがガンドレア火山国だ。
彼らは己の里を捨て、ガンドレアという一つの国を作った。
故にゴズの本名は……ゴズ・ガンドレアという。
彼は一人、椅子に座り目を閉じていた。
そして今しがた聞いた報告をゆっくりと反芻しながら、己の手に残されている方策のうちのどれを採るべきかを、じっくりと吟味し始める。
(もはや連邦の趨勢は決まったと言っていい)
彼はこの国を新たな故郷としたドワーフ達を纏め上げた豪傑だ。
今もドワーフ達は、少しでも長くデザントに対抗できるよう、北部への武器の供出を行うために鍛冶に精を出している。
けれど逃げ散った亜人がそれぞれ作り上げた小国と、それを束ねる連邦の国力は決して高くはない。
独裁を恐れ一国の代表に権力を集中させることもできずにいる彼らは、ジリジリと追い込まれ続けていた。
そしてつい先日、悲報がやってきた。
ガルシア連邦が二国――熱砂の国システナと獣の国アンドルーがデザントに落とされてしまったのだ。
無論、希望の種が全て摘まれてしまったわけではない。
その住人の大部分は未だ無事な六国に逃げ込んでおり、首脳陣も誰一人欠けることなく残ってはいる。
けれどもっとも外敵を排除しやすかった砂漠エリアを抜けられたことで、次の防衛ラインは氷雪エリアまで押し下げなければならない。
そしてそこを抜けられてしまえば後に残っているのは平原エリアであり、そこを更に抜かれれば――ガンドレアまで辿り着かれてしまう。
そもそもゲリラ戦を仕掛けて敵のモラルブレイクを狙って戦うのが限界な今の連邦に、反攻作戦をするだけの戦力など存在しない。
それならば彼らに残された道は――。
「最後まで抵抗し全てを焦土に変えるまで決死で戦うか、さもなくば速やかに降伏をするか……」
今後徒に戦い続けたとして、勝てる見込みは万に一つもない。
だが採れる見込みのある二つの選択肢は、どちらを選んでも暗く救いがない。
もし仮にデザントに降伏したとしても、決してただ地域として併合され、属国になるだけでは終わらない。
戦争で死ぬことはないとはいえ、捕まった者は奴隷として酷使されることになるだろう。
既にシステナで逃げ切れなかったダークエルフ達のうちの一部は、デザントに奴隷として輸出され始めていると聞く。
亜人差別の強いデザントでは、彼らの末路は決して幸福なものにはならないだろう。
だがジリ貧のまま戦い続け、命を磨り減らしてから死んでいくよりは、その方がまだマシかもしれない。
――彼の中にある天秤が、降伏に傾いたその時だった。
先ほどまで誰もいなかったはずの空間に、見知らぬ人物が現れたのは。
「いきなりの無礼、失礼する」
立っていたのは、筋骨隆々の大男だった。
その姿を見てすわ暗殺者かと腰を下げたゴズは、しかしすぐに相手の敵意がないことに気付き警戒を解いた。
「俺はグリンダム・ノルシュという。『不屈』の二つ名の方が有名かもしれんな」
「ふむ……知らんな」
「そ、そうか……」
ガルシア連邦は、デザントを経由した大陸の情報というものを持ち合わせていない。
流れの商人や船乗り達から聞き及ぶ情報は到底最新のものとは言えないものばかり。
彼らがここ最近の魔法技術発達の波に乗り遅れているのは、その地理的な、そして民族的な理由がある。
俗世に疎いゴズは、けれど相手が一廉の人物だということはすぐに理解できた。
気力感知を使えば、目の前の男には到底勝てないということが嫌でもわかってしまった。
そんな人物が、いったい何の用なのか。
彼の疑問は、すぐに解消される。
そしてそれは、新たに垂らされた救いの糸をその目に見せる。
「いいニュースが二つある。一つは長年あらゆる者達の悩みの種であった、『七師』ウルスムスが死んだこと。そしてもう一つは……それを成し遂げた『辺境サンゴ』が、このガルシアへとやってきていることだ。―――どうだ、もう少し詳しい話を聞いてみる気はないか?」
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