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新たな仲間

日間ハイファンタジー3位!

皆様、応援ありがとうございます!


 オウカを助けてから一週間ほどの間、俺たちは適度にオーガを間引いたりしてガードナーで過ごしていた。

 本当はオウカの護衛をするはずのサクラは何故か俺たちと行動を共にしてくれており、リンブルの常識なんかを色々と仕入れることができた。

 リンブルとデザントでは公用語も微妙に違うので、そのあたりの勉強なんかも教えてもらえたし。


 俺がオウカを助け、サクラが行動を共にすることに、エンヴィーたちは最初は難色を示していた。

 けどきちんと説明をしたら、むしろ喜んでくれた。

 大隊の面々とまた一緒に戦いの日々に戻れるというのが、ポイント高いらしい。


「アルノード様、ナイスです!」

「これでまた……戦いの日々に戻れる」


 どうやら二人とも、オーガとの生ぬるい戦闘をすることに既に嫌気が差し始めていたらしい。

 タイミング的にもよかったのかもしれない。


 俺はどちらかといえば、みんなに慎ましやかに生きていてほしかったが……結局は当人たちの自由だしな。

 結局はみんながやりたいことをやって、最後に俺が責任だけ取るいつもの形に落ち着いたな。


 でもオウカもわざわざ『聖騎士』であり、自分の姉でもあるサクラを俺につけてくれるなんて……それだけ侯爵も俺のことを大事に思ってくれているってことか。


 サクラの方もわざわざ追放された俺と行動を共にするだなんて嫌だろうに、そんな素振りも見せずにちゃんと一緒に居てくれる。


 やっぱりリンブルはいい国だな、デザントよりずっと居心地もいい。

 そして出発のための準備や冒険者ランクを金にあげる手続きなんかに追われているうちに、とうとう新たなメンバーがやってきた。

 大隊を抜けてきた新たな四人が、ガードナーに到着したのである。






「た、隊長――会いたかったですっ!!!」

「おおっと……おいおいエルル、まだ二週間も経ってないぞ」


 熱烈なハグを受け止めると、ふわりと甘い香水の匂いが鼻腔をくすぐる。

 俺より頭一つ分ほど低いところに、綺麗なブロンズの長髪がある。


 そっと手櫛で髪を梳くと、嬉しそうに一段抱きしめる力を強められる。

 彼女――エルルはこれをすると喜んでくれる。

 最初の頃は少し気恥ずかしかったが、今ではもう慣れた。

 部下のメンタル面のケアをするのも、上司の仕事だからな。


 抱きついたのが恥ずかしかったのか、離れるとエルルは顔を真っ赤にしていた。

 頭を撫でて笑ってやると、彼女は更に頬を染めながらぶんぶんと首を縦に振り出す。

 ……意味はよくわからないけれど、これからもよろしくな。


「……隊長ー、お久しぶりですー」

「セリアもよく来てくれたな」


 エルルはエンヴィーたちと同じ偽装を施した『ドラゴンメイル』を着込んでいるが、セリアの装備は彼女の特性にあったものに誂えられている。


 着用しているのは真っ黒なローブで、今は被ってはいないが、フードですっぽりと顔が隠せるようになっている。

 髪はショートだが、前髪を伸ばしているので目が全く見えない。

 「暗いところが落ち着くんですー……暗くないなら、自分で暗くすればいいんですー」とは彼女の談。


 持っているのも髑髏の嵌め込まれた杖で、頭蓋骨に相当する部分からはいくつもの触手が飛び出している。

 ちなみに飾りではなくて、本気で戦うときは触手がセリアの腕に突き刺さり、彼女の血を吸って力を発揮する仕組みになっている。


 いや、たしかに大人しめとは言ったが……セリアは俺も含めたメンバーの中で一番の広域殲滅型だ。

 侯爵に失陥した土地の攻略戦を認めてもらったからいいものの、少し前までの状態なら完全に要らない子だっただろうに。


 彼女は死霊術士であり、死者や使い魔を使役することができる。

 更には使役するアンデッドたちから教えを受けたことで、呪いや即死系の魔法も使いこなせるようになっていたりもする。


 時代が時代なら魔女狩りで殺されかねないような、かつて禁呪とされていたヤバ目の魔法も使えるので、戦力としてはかなり頼りになる。


 死霊術や禁呪は使うために結構なコストがかかるので、威力を上げると最終的に勘定が合わなくなるのが玉に瑕だが、それでもありがたい戦力増強要員だ。


「ラブラブチュッチュですね隊長、一杯行っときますかぁ」

「お前、また呑んでるだろ。軍務中の飲酒は……いや、軍人じゃないならいいのか?」


 緑色の目をした黙っていれば美人な彼女はライライ。

 かなりの酒乱であり、酒を飲めば飲むほど気力が増加し、戦闘能力が上がっていくというめちゃくちゃな体質のやつだ。

 彼女が着けているのも『ドラゴンメイル』なのだが、機動力を重視してパーツごとに着脱可能な造りになっている。

 どちらかといえば部分鎧に近いだろう。


 こいつが来たのは、間違いなく俺の所なら飲酒を咎められないからだろう。

 体質上戦うときは飲酒しなければ全力の出せない彼女は、大隊の頃の戦闘能力は下から数えた方が早かった。

 規律上、非常時以外は酒を飲むのを禁止してたからな。

 でも冒険者になり無制限な飲酒が解禁されれば、こいつの強さはトップ5には入る。

 ベロベロになると寝てしまうので加減が難しいのだが、まぁなんとかしていくしかない。


「元第三十五辺境大隊魔道具部門小隊長シュウ、現着致しました!」

「よく来てくれたな。だが俺もお前も既に軍から抜けて、冒険者になっている。もうちょっとフランクな感じで大丈夫だぞ」

「了解しました!」


 最後の一人、シュウは新たなメンバーの中では唯一の男性メンバーだ。

 キリッとした顔をした、生真面目君である。

 肌は浅黒いが、身体は細く長くひょろひょろだ。

 魔道具で全身をガチガチに固めているのでそこそこ戦えるが、あくまでも自衛できる程度の力しかない。

 彼は数少ない大隊の後方担当の人間で、魔道具の修繕や改良を担当してもらっていた。


「お前がいなくて大隊は回ってるのか?」

「アルノード様がいない時点で回りませんよ。そもそも僕ら全員閑職に飛ばされたみたいなもんですし。ですから魔物避けなんかも中身入れ替えてません、ボイコットですボイコット」


 どうやら俺がいない数日のうちに、大隊のみんなの境遇は大分変わってしまったらしい。

 あんまり怒らないシュウにここまで言わせるとは……いったいどんな奴が上についたんだろうか。

 新しい『七師』の求める人材と大隊のみんなが、噛み合わなかったってことなんだろう。

 だったらその受け皿になってやらないとな。


「一応みんなに改めて事情を説明しておくとだな……」


 俺はようやく落ち着いた四人に、俺たちの置かれている状況の説明をする。

 事前にある程度話はしてあったので、特に驚かれたりもしない。

 新天地で不安とかないのかと聞いてみたが、


「今までとやってること変わりませんしー」

「お酒飲めるならなんでもいい!」

「隊長にどこまでもついていきます!」

「ちゃんと能力が活かせる場所があれば、僕はそれでいいです」


 一応、みんな自分たちなりに考えているらしい。

 ライライとかは思考放棄して飲酒しているだけのような気もするが……それもまた彼女の人生だ、否定はすまい。


「ライライ、お前は俺たちと別行動で、大隊のみんなをこっちに呼んできてくれ」


 エルルは仲間思いで、セリアは戦っている姿を見られれば下手をすれば討伐されかねない。

 そしてシュウは非戦闘員ときている。

 消去法だが、頼めるのはライライしかいないのだ。


 みんながこっちにくるまでに……二ヶ月くらいはかかるだろうか。

 どうせならその前に、最低限街の一つくらいは取っておきたいな。


 そして報酬として、大隊が暮らせるような街の一画なんかをもらえたら最高だ。

 魔物の素材なんか収納箱に死ぬほど入ってるので、金の心配はしなくていい。

 侯爵の後ろ盾を遠慮なく使えるなら、死蔵してた素材群が火を噴くぜ!


「えー、また戻んの面倒なんだけ――」

「報酬として、侯爵邸のワインセラーから好きなだけ持っていっていいぞ」

「行くー!」


 即答だった。

 ライライをちゃんと働かせるために、オウカに事前に話をしておいて助かったな。

 酷い評価だが、こいつは酒さえあげとけば大抵のことはやってくれるからな。


 ……こんなのが軍隊で出世できるはずないよな。

 やっぱり第三十五辺境大隊の奴らって、俺まで含めてみんな社会不適合者なのでは……?


「話は終わったのか?」

「ああ、こいつらも一癖ある奴らだが戦闘力は保証するぞ。それ以外は何一つ保証はできない」

「ふふっ、わかっている。アルノード殿しか手綱は握れないということだろう?」


 挨拶をと一緒に来てくれていたサクラが笑い、口元に手を当てる。

 行動を共にするようになってから、なんだかサクラの様子がおかしい。

 最初の頃より雰囲気がずいぶんやわらかくなり、前みたいな毅然とした女騎士感が薄れている。

 助けたことで実力を見せてからというもの、俺のことをめちゃくちゃ持ち上げてくれているし。

 何かの罠かと疑いそうになるほどだ。


「た、隊長っ! だれですかこの女は!」

「貴殿は……エルル隊員だな。リンブル王国第一騎士団序列第四位、『聖騎士』のサクラ・フォン・アルスノヴァ=シグナリエだ」

「――隊長? ……妙なことはしてませんよね?」


 なんだか凄みのある笑みを浮かべるエルルに思わずたじろぐ。

 笑っていたかと思うとすぐに真顔になり、俺のことを見上げてくる。


 いきなりどうしたっていうんだ。

 何故か目のハイライトが消えているのが、妙に怖いんだが……?


「妙なことってなんだ?」

「――ふふっ、よかったです! 隊長はみーんなの隊長ですもんね!」


 急な変調が嘘だったかのように、一瞬で元の笑顔に戻る。

 ふぅ、助かったな。

 理由は分からないが、なぜか命の危機を感じたぞ。


「……ねぇ、エルルちょっと離れてるうちに大分こじらせちゃってない?」

「――しょうがない。私たちみんな、初めてだし」


 後ろの方でエンヴィーたちが何か囁き合っているが、よく聞き取れない。

 エルルの様子を見たシュウは、疲れたと言いたそうに背を曲げた。

 よく見ると、頬が少しこけているように見える。


「隊長、僕に彼女たちの引率は無理です。しばらくの間、引きこもっててもいいですか?」

「……とりあえずお前用に馬車を一台用意しよう。移動中は一人で何かに没頭してもらって構わない、なんなら素材も融通する」

「本当ですか!? それなら以前から気になってた『通信』の魔道具の開発のためにマジックレアメタルと魔核をですね……」


 シュウには苦労をかけた。

 こいつ一人でこの面子をまとめるのはしんどかっただろう。

 俺みたいに、いざという時に拳で言い聞かせたりもできないからな。

 長期休暇はまだ無理だが、少なくとも移動の間くらいはゆっくりと休んでもらえたらと思う。


「あっはっは、酒だ酒だぁ!」

「ううっ、明るい、明るいよぉ……」


 陽気にビールを飲んでいるライライと、溶けたなめくじみたいに地面に倒れているセリア。

 新たな面子は、エンヴィーとマリアベルよりキャラもアクも大分強い。


 俺とこいつらだけで、領地の奪還はできるのだろうか。

 戦闘能力だけ見れば、問題はないんだけどなぁ。

 考えるだけで気が滅入ってきたぞ……。

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