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藻屑


 ディカンティウムには港はない。

 なので恐らく着港地点は、ジョットがある程度密に連絡を取れるような、比較的ディカンティウムとの距離が離れていない場所になるはずだ。


 その候補は三つほど。

 俺はその中で最も本命と思われるアンドゥの街へとやってきている。


「うむむ、見えないな……」


 デザントの魔法技術は高い。

 なんでもザルに見えていた先ほどまでと違い、クレボヤンスを使って海の様子を見ようとしてもある一定のところまで行くと急に何も見えなくなってしまう。

 恐らくは大規模に、クレボヤンスを阻害する類の魔道具が展開されているんだと思う。


 他の二つの街にも同様にクレボヤンスを使ってみるが、やはり反応はかなり悪い。

 まるで砂嵐の中にでも入ってしまったかのようなノイズと荒すぎて後ろがまったく見えない映像が映るばかりで、様子はまったくわからない。


「となるとどうにかして魔力なり気力なりを感知するしかないわけだが……」

「海のような広範囲の場所を網羅しようとするには、数がまったく足りませんね」


 『ざぶざぶホエール君』の数は合わせて二十ほどあるので、候補地ごとにある程度分散して配置ができる。

 こっちが本命だと思い八機、残る二箇所にはそれぞれ六機ずつを置いている形だ。


 

 デザントからリンブルまで来る海上ルートがわかればいいんだから、前見たく海流に沿ってって感じでもないので、どうにも予測するのは難しい。

 魔導船を使われると、どっから来るかはまったく読めないからな……厄介なものが開発されてしまったものである。


 ――元々デザントを初めとする各国で運用されていたのは風を動力にして進む帆船だった。

 けれどデザントが風ではなく魔力を動力にして、波や風に逆らって進むことのできる魔導船を開発してしまった。

 そしてそれにわずかに遅れる形でオケアノスも魔導船を開発、両者は海上でしのぎを削るようになったと。


 ちなみに魔導船も分類としては魔道具にはなるんだが、その仕組みとかはさっぱりわからない。死霊術なんかと同じく、こちらも俺にはまったくの門外漢だ。


「よし、とりあえず探知に優れる面子を分散させて乗り込むぞ」

「「「了解です!」」」


 俺達の目の前には海がある。

 そして大星洋には、ぷかぷかと浮かぶ八つの影が。


 一見すると陸揚げされた鯨にしか見えないこいつらこそが、俺が用意しておいた秘密兵器――『ざぶざぶホエール君』である。


 『ざぶざぶホエール君』は、簡単に言えば人を乗せることのできる鯨型の船だ。

 魔導船のように緊急時の帆はついてはおらず、もっと言えば甲板やキールなんかもない。

 ただ鯨のような流線型をしたボディと中へ入るための入り口だけがあり、人を乗せて海の深くまで沈んでいく。

 一応外を見るための採光窓はついているけど……これを船と呼んでいいものか、正直微妙だと思っている。


 前に進むための仕組みは簡単だ。

 魔導船と同じで、魔力を使った内燃機関を使い、魔力を推進力として船を前に進めるのだ。 火魔法に変換された魔力が熱に変換され、それを機械的な仕事に変えて船尾から噴射することで推進力へと変えるのだ。


 俺がこの『ざぶざぶホエール君』を作ったのは、もちろん将来的にオケアノスと行う海上戦で有利に立つため……ではない。

 海のデカい魔物を取るために、深いところまで潜れる船が欲しいなと思い、暇な時間を見て作っていたのだ。

 ガードナーの街でスローライフを送っている間、幸いなことに暇だけはあったからな。


 ちなみに今回俺についてきてディカンティウムまでやってきたのはエルルたちだけだが、『ざぶざぶホエール君』に乗っているクランメンバーの数は優に百人を超えている。

 有事の際の備えとして用意していたものが無駄にならないのはありがたい。

 が、でいれば無駄になってほしかったという思惑もある。


「うぅん、やっぱり報告にあった通り、かなり熱いな……」

「ですねぇ、熱がこもってますのでぇ……」


 俺と行動を共にしているセリアと一緒に、服をパタパタと手で仰ぐ。

 船内の居住性は最悪で、こんなところにずっといるとゆでだこになってしまいそうだった。

 さっさと敵を探して沈めなければいけない。

 できれば向こうにバレないうちに全てを終わらせたいところだ。


 一応今、強化してないとキィンという耳鳴り音が聞こえてくるほどの深度まで潜っている。

 ここまで来れば、多分船にいる魔法使いたちの探知も抜けられるはずだ。


 熱い熱いと言いながら、ハンドルに魔力を流して船体を動かすことしばし。

 ようやくこちら側の探知に獲物が引っかかった。


「数は……二十前後か。乗組員だけなら多分三四百はいる……」

「全部沈めますか?」

「ああ、リンブルの懐に余裕はない。『ざぶざぶホエール君』の情報秘匿と実戦をかねて全艦沈めるぞ」


 これは領海内の出来事ではあるが、デザントの応援も俺の奮闘も、多分歴史書に残ることはないだろう。

 向こうもこっちも、非公式な応援ってことになってるからな。

 俺らが正式に戦うことになれば、デザントとの戦争に突入することになる。

 誰も口を利ける人がいなくなるよう、向こう側の人員には全員海の藻屑になってもらうとしよう。


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