ミッション
「貴様ら、いったい何も――ぐべぇっ!?」
「通らせてもらうぞ」
ジョットの屋敷の警備はそれはもうザルだった。
まともに職務をまっとうしてるのは表にいた衛兵達だけで、一度中に入ってしまえばみんな俺が手を向けただけで降伏する始末。
いやぁ、人望がないねぇ。
まぁ人心を離反させたは、俺なんだけどさ。
目的地までを一直線に進んでいく。
ここの領主の心証を悪くしたくないから、物を壊すのは最低限にしておいた。
へたりこむメイド達や震える使用人達に道を聞きながら進んでいくと、目的の人物の部屋にはすぐに辿り着くことができた。
「悪いけど」
「眠っててください!」
部屋のドアにはジョットの私兵たちがいたが、エルルとマリアベルが即座に意識を奪う。
手刀で相手の気を失わせるのって結構力加減がむずいんだよな。
失敗すると普通に首の骨折っちゃうし。
ドアには鍵がかかっていたので、気力で強化した腕力で強引にノブを回す。
バキリと音を立てて壊れたドアを開けば、そこにはベッドの上からこちらを見上げる男の姿があった。
よく見ればその隣には、明らかに困憊した様子の女性がぐったりと横になっている。
部屋の中に感じる異臭に、俺だけではなくエルルたちも顔をしかめる。
よく見れば女性の身体にはあちこちに傷がついていた。
どうやら昨晩はかなりお楽しみだったようで。
……このゲスが。
「お、お前たち、ここを誰の屋敷と心得て……」
「うるさい黙れ」
「がぼおおおおっ!?」
ジョットの腹部を思い切り蹴り抜く。
勢いがつきすぎたせいで、壁がめりめりと嫌な音を立てる。
……しまった、屋敷に傷はつけないつもりだったのに。
ついやりすぎてしまった。
俺もまだまだ心の鍛錬が足りないな。
「とりあえず話を聞かせてもらおう。お前の処罰を考えるのはそのあとだ」
「あ……が……」
それからはジョットからの事情聴取タイムと相成った。
荒事には慣れていないようで、最初こそ口をつぐんでいたものの、ちょっと肉体言語で会話をするだけで簡単に話を教えてもらうことができた。
「オッケー、これであとはお前を連行するだけだ。ご苦労だったな」
返事は聞かずに、ジョットの意識を手刀で刈り取る。
よし、今度は上手く手加減ができたぞ。
「殿下に……栄光、あれ……」
忠君涙ぐましいことを言いながら倒れ込むジョットを縄でふん縛ってから、深呼吸をする。
そして倒れていた女性の手当をするようメイドに言ってから、一度、聞き及んだ話の内容を反芻することにした。
ジョットがこの時期になって急に蜂起を決意したのは、やはりアイシア殿下の差し金だった。
抜き差しならない状態の彼女がなんとか現状を打開できる綻びを見つけようとして打った手が、ジョット達による蹶起だったわけだな。
彼女としてもこれが上手くいくとは思っていなかっただろう。
上手くいってくれれば儲けもの、くらいには思っていたかもしれないが。
そしてジョットが考えていた奥の手とは、アイシア殿下からの入れ知恵だった。
その内容は――デザント王国からの海を経由しての援軍である。
どうやらデザントには戦力的な余裕が出てきたらしく、魔法大隊のうちのいくつかが渡航してくるらしい。
それらの情報を頭の中で総括し……俺はふうっと息を吐いた。
「よかったよ……想定していた最悪がこなくて」
どうしようというため息ではなく、安堵から息を吐いただけだ。
俺の想定していた最悪とは連邦との戦争が終わり、そこでだぶついた戦力をがんがんリンブルに回してくることだった。
一応今の段階でも『七師』を一人二人なら派遣できるからな。
そうなれば俺が全力で向かったところで馬鹿にならない被害が出てしまう。
だがどうやら今回の援軍に『七師』はいないらしい。
それならまあ……俺たちが到着するまでは、あれで耐えられるだろう。
備えておいて助かった。
想定していた使い方とは少し違ったけどな。
俺としてはランドル辺境伯の海軍を押しとどめるために使わせるつもりだったんだが……まあこれくらいは誤差の範囲だ。
「『ざぶざぶホエール君』の使用許可を出す、デザントの船を可能な限り沈め、船に遅滞行動を取らせるよう動けと伝えてくれ」
「――はっ!」
シュウが作ってくれた『通信』の魔道具のおかげで、領内くらいならそこまでの設備がなくとも連絡が取れるようになった。
あとはデザントを追い返してジョットを王都へ連れて行けば、俺たちのミッションは終了だ。
最後まで気を抜かずに行こう。
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