想定外
「その武人としての気概はたしかにあっぱれ……しかし少しばかり性急が過ぎます。もう少し詳しい話をしていただかないことには、私の方も答えを出すことができません」
「むむ、それはたしかにそうだ。……私の方も少しばかり焦っていたかもしれん、すまぬな」
まったく悪びれた様子もなく、ランドル辺境伯は椅子に座り直す。
ほっ……いきなりスプラッタになるかと思ったけど、なんとかなったな。
事前の予想とはずいぶん違い、ちゃんと話の通じる相手ではありそうだ。
……まあ少しばかり、武張った人物ではありそうだが。
「辺境伯、どうして急に己の首を差し出すなどという突飛な考えを?」
「何も突飛ではあるまい。古来より籠城戦の終結の際などには、降伏の証として守将の首を差し出すことはよくあることだ」
――なるほど、ランドル辺境伯の降伏の印として己の首を、勝利陣営であるソルド殿下の下へと届けようという考えだったわけか。
この分だと俺の『収納袋』が内部で時間を停止させていることも知られているだろうな。
侮れない諜報能力だ。
「ソルド殿下は寛大です。わざわざ首など差し出さずとも、あなたが王党派に下ればそれで問題は全て解決するでしょう」
「それはできん。だから私の息子が鞍替えし、辺境伯を継ぐのが一番丸く収まるのだ」
「どうしてそうなるのです?」
ランドル辺境伯の言い分はこうだった。
彼の領地はかつて、不作から飢饉が発生し食糧危機に見舞われたことがある。
その際物価は乱降下し、商人が暴利を貪り、農民達は木の根をかじってなんとか飢えを満たしていた。
辺境伯が倉庫を開き非常用の物資を放出しても、まったく収まる気配はなかったのだという。
そしてあわや暴動が起こるかどうかというところで救いの手を差し伸べてくれたのが、アイシア王女殿下だった。
彼女は地方分派の貴族達に働きかけて商人を誘致し、出し渋っていた現地の商人達からは王族特権を振りかざして強引に物資を供出させた。
またその際に大量の資金を与えられもしたらしい。
基本的には借金だったようだが、中には返還義務のない贈与金もあったようだ。
ランドル辺境伯は、アイシア王女に対して非常に大きな恩があるってことだな。
彼にとってアイシア王女殿下はパトロンでもあり、同時に助けてくれた救世主でもあるわけだ。
彼からすれば、地方分派から王党派に寝返るのは裏切りに他ならない。
助けてもらった恩があるんだから、そんなことはできないとその態度は頑なだった。
もしかしたらアイシア王女は、ランドル辺境伯のこういう一途なところを見抜いていたのかもしれないな。
良くも悪くも、一度こうと決めたら梃子でも動かないタイプの人っぽいよな。
さてさて、どうするのがいいのか……。
「閣下、ご報告が」
「……緊急性はそれほど高いのか?」
頭の中で色々と考えをこねくり回していると、ドアにノックがかかる。
外から伝令兵と思しき人間が入ってくると、辺境伯の耳元で何かを囁いている。
そこからもたらせる情報は、俺も知らん顔のできぬ内容だった。
どうやら辺境伯の一人息子が、本格的な戦支度を始めたらしい――。
……バカ野郎が。
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