後味
今回やってきた面子は俺、セリア、エルル、マリアベルの四人。
冒険者パーティーの基本が四人一組のフォーマンセルなので、不審がられないようそれに合わせた形だ。
俺達が宿を借りようとすると、宿屋の店主は神からの贈り物だと言わんばかりの喜びようだった。
一人一部屋でお願いすると、更に喜ばれた。
四つ部屋が埋まるだけであの喜びようとなると、今辺境伯領にやってくる人は相当に少ないんだろうな。
あとで話を聞かせてもらえば、有益な情報が得られそうだ。
だがまずは作戦会議だ。
「まず考えられるのは、戦争の準備って可能性だよな」
「まあたしかに、それが一番可能性は高いと思いますが……」
「……勝てるとは思えない」
マリアベルの言っている通り、今のまま戦っても地方分派が王党派に勝つ見込みは限りなくゼロに……というか、完全にゼロだ。
そもそも海軍が主体のランドル辺境伯領軍に陸戦能力は期待できない。
更に言えば他にランドル辺境伯やアイシア第一王女に呼応するような大勢力は、既にソルド殿下による懐柔が済んでいる。
だがそれらよりもずっと重要なのは、俺たちがデザントから持ち込んだ先進的な魔法技術を地方分派の人間はほとんど享受していないところだろう。
俺が指南書を作ったり、クランメンバーを使ってみなに手ほどきをしたりしているおかげで、今までデザントに大きく水を開けられていた魔法技術の面でも少しずつ差が埋まり始めている。
当たり前だが俺は無差別にリンブル全体の魔法の水準を上げようとしているわけではない。 あくまでソルド殿下やアルスノヴァ侯爵の派閥である王党派の人間、更にその中でも二人が彼らならば裏切らないと言い切った人達を優先させるようにしている。
旧態依然でありながら戦力が三分の一以下にまで削られているランドル辺境伯率いる地方分派が、デザント式の魔法技術を取り入れ、トイトブルク大森林からやってくる魔物被害を抑えることにも成功し発展著しいアルスノヴァ侯爵率いる王党派に勝てる道理がない。
文字通り詰んでいる地方分派の最後っ屁……と見るのが正しいように思えるな。
「何か勝算あってのことではないのですか?」
「勝算……考えられるのはデザントとの挟撃くらいだろうが、それも考えづらい」
ガルシア連邦との戦争が完全に終結するまでに新たな戦線が増えるはずもないので、そこを当てにしているというのも違うだろう。
だがとすると、なぜ今になって戦争に踏み切るような愚かな真似を……?
「いや、アルノードさん。一ついいでしょうか?」
「なんだ?」
「愚かだから、内戦に踏み切ろうとしたんじゃないでしょうか」
エルルの考えはこのような感じだった。
あのアイシア王女殿下ではまともな政治的、軍事的な判断はできそうにない。
統治手腕を見ている限り今代のランドル辺境伯も大してそれと変わらない程度としか思えない。
であれば、そんな愚かな二人であれば、色々と都合の良い解釈をして戦端を開きかねないのではないか?
俺としてはいまいち納得はできないが……たしかにまともに考える頭があるんなら、歯向かうのではなく、どうすれば自分達の勢力が一番力を保持したまま降れるかを考えるはずだ。
まあ最低限、何かしら有利な交渉ができると思っているような何かがあると考えて……あまり刺激しすぎないように動いてみるか。
まず情報収集と退路の確保をしてから、辺境伯との交渉だな。
うまくいくだろうか。
……いかない気がするなぁ。
話が通じなかった時のことも考えて――一応準備はしていくか。
これは他のメンバーには言ってはいないが……ソルド殿下から、最悪の場合は辺境伯の命を奪う許可も得てはいるし。
けど今後のことを考えれば、最悪でも捕縛して王都に連れて行くくらいのところには留めておきたいんだよなぁ。
――とりあえずそんな後味の悪い結末にならないよう、俺としても何手か打たせてもらいますかね。
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