最後のイベント
その後、『辺境サンゴ』の他のメンバーたちとも同様の話し合いを行った。
こちらが手玉に取ったり取られたりと人によって俺とあちら側の関係性は微妙に違ったりもしたが、とりあえずいきなり状況が悪化したり、しょっぱなから喧嘩をするようなことにはならいなかった。
話を聞いている限り、俺のハーレムに入ることになったメンバー達の関係も、ひとまずは良好ということらしい。
元から知らない仲ではないので、ゼロから関係構築をする必要がないというのが大きいらしい。
とまあそんな風に、みんなと話をしているうちに二日目は終わった。
ちなみにみんなの気持ちに応えるとか言ったくせに、俺は普通に一人で寝た。
……いや、そういうことはもっと順序とかを踏んでからやるべきだしな。
付き合うことになったから今すぐにその……そういうことしますっていうのは、逆に不義理だろう。
それにそういう関係になる前の時間を、もっと楽しんでおいた方がいいと思うのだ。
俺も、そして彼女たちも。
来る三日目、この日の昼をもって別荘での旅行は終了という形になる。
最後の日に、みんなで思い出を作ろうということになった。
別荘で、みんなでやる思い出作り。
それがなんなのかは決まっている。
――そう、主釣りだ!
「番号!」
「一!」
「二!」
「三!」
俺たちはここを去る前に、最後に主だけは釣っておこうということで、家の中でうだうだしている予定だったセリアまで引き連れて川釣りと洒落込むことにした。
解散は昼。
どうせなら主を釣って、その馬鹿でかい身でバーベキューといこうじゃないか。
全員に戦闘準備を整えさせる。
主は水棲であり地上戦は想定していない。
そしてこれはあくまでも釣りなので、隊員全員で水中へ潜って水中戦闘という無粋なやり方をするつもりはなかった。
俺はあくまでも釣りで、主とのケリをつけるつもりなのだ。
全員に軽いウォームアップをさせながら、気力による身体強化を行わせる。
気力の場合は最大出力に至るまでに時間がかかるので、その間にメンバー同士で軽い組み手をさせて時間を潰させることにする。
俺はその間に、主を釣るために密かに作っていた秘密道具を取り出すことにした。
「うっわ、なんか生き物みたいで気持ち悪いですねぇ……」
「そう言うな。一本の竿にみんなの力を乗せるには、これが一番良かったんだよ」
既に日差しを浴びてグロッキーそうなセリアが、取り出した巨大な道具を見て目を細めている。
俺が『収納袋』から取り出したそれは、魔物のような見た目をした釣り竿である。
真ん中に一本脊柱のようなぶっとい竿があり、そこから枝分かれするように多数の紐が伸びている。
たしかにパッと見ただけだと、新種の魔物のように見えなくもないな。
ただこれこそが、俺が徹夜して生み出した新たな魔道具『オールフォーワン』だ!
「て、徹夜して作ったんですか……隊長も案外楽しんでますね」
エルルがちょっと呆れたような顔をしている。
この『オールフォーワン』には付与魔法で『頑健』をつけている。
どれだけ強い力で引っ張られようとも耐えてみせるだろう。
そして引っ張るための紐それぞれにかけてあるため、どんな力自慢が引っ張ってもすっぽ抜けるようなことがない。
全員が握ってもまだ持ち手が余るので、今回はセリアのアンデッドを使わせてもらうことにする。
「こ、こんなことのために死霊術を使わなくちゃいけないんですかぁ? ……まあ、アルノードさんが楽しそうなんでいいですけどぉ」
セリアが大量のアンデッドを呼び出し、取っ手を握らせる。
一番後ろにある抜き身になった竿の部分を俺が握り、残る部分をひとまずアンデッド達に任せ、まずは試運転を始める。
竿自体のサイズがべらぼうに大きいせいで、まともに竿の方向転換ができない。
作ったはいいが、どうやって主に食いついてもらうかまでは考えてなかったな……。
少し協議をした上で、隊員の一人に先端の方の操作を任せ、動かしてもらうことにした。
みんなの用意ができたところで、釣り竿を握るのをアンデッドから『辺境サンゴ』メンバーへ変えてもらう。
あまった持ち手は、アンデッドの中でも膂力に優れる個体に引かせる形にした。
この『オールフォーワン』は先端にも仕掛けがしてある。
餌をひっかける針がかなり鋭利になっているために、軽くしならせるだけでつけている餌から血が出るようになっているのだ。
魚の中には血を嫌うものも多いが、主は魚型の魔物だ。
餌はデカければデカいだけいいはずだし、血生臭い方がその臭いに引かれてやってくるはず。
そしてそんな俺の想定は見事的中する。
主は試行すること三度目で、無事餌にくらいついてくれた。
釣り針も、食いついた魚を逃がさぬための返しも、全て特急仕事で作ったオリハルコン製だ。
俺は本職の鍛治師じゃないからあくまで素人仕事ではあるが、さりとてオリハルコン。
そう簡単に壊れはしないはず。
「よしっ。せーのっ!」
「「「いーちっ! にーいっ!」」」
俺が出した合図に従って、皆が一生懸命に紐を引く。
エルルと二人でやっていた時とは違い、これだけの人数がいればさすがに力負けすることはないだろうと思っていた。
けれど――おいおい、嘘だろっ!?
主の野郎、この大人数相手に力負けしないのかよっ!
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