覚悟
「とりあえず、付き合ってみようと思うんだ。その、俺に好意を寄せてくれたみんなと……」
俺が出した答えは、今からみんなと一緒に恋人としてやっていこうというものだ。
もちろん、俺に好意を寄せてくれている女の子たち全員とだ。
ハーレムを作る覚悟を固めた、と言えば聞こえはいいかも……いや、ハーレムの時点で聞こえは悪いか。
とにかく俺は、みんなが好意を寄せてくれるというのなら、それに応えようと決めた。
「俺のことを好きでいてくれるみんなのために、もっと精進していこうと思う。なるべく見限られたりしないように、頑張ってみるから」
色々と悩んだりして長くなってしまったが……これからみんなと付き合っていくことになる。
この場合は、俺がどうこうと決めるだけじゃなくて、俺に好意を寄せてくれている女の子達の方でも色々と取り決めしなければいけないことがあると思うので、みんなに決意表明だけしてから、俺は別荘を後にすることにした。
それからしばらく『辺境サンゴ』のメンバー達の中で話し合いをしたらしく、その結果として、まずはみんなが個人個人で俺と話をして、デートをしようということになったようだ。
もちろん俺に否やはないので、今日一日はデート三昧をしようと思う。
色んな人とデートをする……こんな不思議体験、そうそうできるものじゃない。
男冥利に尽きると思って、楽しんでいこう。
まず最初にデートをすることになったのは、セリアである。
セリアが一番最初なのは、なんというかちょっと意外だ。
彼女は一応マスコット的な立場だったりもするので、みんなから背中を押されたのかもしれないな。
何をしようと聞いた結果、別荘の中で話をすることになった。
デートってもっとこう外に出掛けるものだと思っていたんだが、どうやらその常識は彼女には通じないらしい。
家の外に出るの嫌ですぅと、セリアは外へ向かう扉に近寄ろうともしなかった。
「……いや、ここお前の家ではないからな?」と言わずに我慢できた俺を誰か褒めてほしい。
「……ふんふーん、ふふっふーん」
「楽しそうだな、セリア」
「あーたん……は楽しくないですかぁ?」
付き合うにあたり、更なる呼び方変更をすることになった。
みんなに丸投げした結果、セリアの俺の呼び方はなんとあーたんである。
どこからたんが出てきたのかは、まったくの謎である。
好きに呼んでくれとは言ったが……フリーダムだな。
「一つ聞いてもいいですか?」
「なんでも答えるぞ」
「あーたんは私のこと、本当に好きですかぁ?」
「ああ、好きだぞ」
「即答っ!? ――それじゃあ、どのあたりが?」
「魔法の話ができる数少ない女の子なのがまず一つ。俺の知らない分野のプロフェッショナルっていうのがデカいな。何か一つを突き詰められる人っていうのはすごく魅力的に見えるし」
そこからどんどん、セリアの好きなところを挙げていく。
すると四つ目を言い終えたあたりで、もういいですぅというギブアップの声がかかった。
なんだ、まだまだあるぞ。
もう付き合ってるんだから、恥ずかしいとかもない。
一度踏ん切りがついたからか、なんだか吹っ切れてきた気がするぞ。
今の俺には、何も怖くない。
急に無敵になったような気分だ。
「セリアはこういう形でも問題はないのか?」
「そ、そりゃあ問題ないわけではないですけど……あーたんを一人で独占できるほど、私に魅力があるとは思っていませんので」
外からは午後の日差しが差し込み、部屋の内側に格子縞ができている。
陽光と影の織りなす模様が、体育座りをしているセリアの腿のあたりに当たっていた。
セリアは筋金入りのものぐさなので、着ている服はいつもと変わらぬローブ。
相変わらずだな……と思っていると、少しだけ変化に気付く。
よく見れば彼女の前髪が、俺がいつも見てきたものより少し長くなったような気がしたのだ。
そのまま後ろの方へ目を向けてみれば、全体的に髪のボリュームが少し増えたような気がする。
毛量も多くなっているし、髪も長くなっている。
無精だからそのまま……というわけでもなさそうだ。
毛先までしっかりと手入れが行き届いているのか、枝毛も見受けられない。
「セリア、もしかして髪伸ばしたか?」
「え、あ、はいぃ。前にあーたん、髪が長い子の方が好きって言ってたので……」
「……そっか」
たしかにそんなことを以前言ったような気もする。
俺はどちらかといえばしっかりと女の子してる女の子の方が好きだから、多分平気でそういうことを言ったんだろうな。
……俺のことが好きな子に対して、その子から大分外れた女の子像がタイプだと伝え。
要望に応えようと必死になって髪を伸ばされても、それに気付きもしない。
どうやら俺は、まだまだ修行が必要なようだ。
「でも、似合ってると思う。無理して伸ばす必要はないからな、面倒っていうならばっさり切ったって……」
「いえ……いいえぇ、いいんです。伸ばした方があーたんが好きになってくれるっていうなら、私いくらでも伸ばします! 地面につくまで伸ばしたって平気です!」
「いや、さすがにそれはやりすぎだろ……」
スッと近寄る。
セリアは一瞬だけビクッと身体を縮こまらせたが、強く抵抗はしなかった。
ゆっくりと手を前に出し、伸びてきたセリアの前髪に触れる。
髪は抵抗なく手櫛を受け入れた。
毛先の方へ手を動かしてみても、ギシギシするような気配もない。
髪が擦れたからか、ふんわりと甘い匂いが漂ってくる。
セリアはかなり小柄で、どちらかといえば娘みたいな感覚でいたけれど……こうしてると、女の子だって感じるな。
「ど、どうぞっ!」
セリアは目をギュッと瞑ったまま、好きにやっちゃってくれと両腕を拡げてみせた。
その俺に全てを委ねるというポーズに、少し心が揺れる。
けれどさすがに何段飛ばしで事態を進めるつもりもないので、俺は目を閉じているセリアの唇に、人差し指を置いた。
「今はここまでにしておこう」
「は、はいいぃ……」
くたっと地面に倒れ込む彼女の髪をもう一度スッと梳いてから、俺は次の場所へ向かうことにした――。
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