ハーレム
「ハーレムか……」
「そう、ハーレムだ」
サクラはどうも本気で言っているらしい。
彼女がふざけたりしていればすぐわかるっていうのは、短くない付き合いで知っているからな。
にしても、そうか、ハーレムか……。
たしかに愛するのを一人に絞らなくちゃいけないという理由はないんだよな……。
でもそんなの俺にできるんだろうか。
そもそも女の子一人の機嫌すらまともに取れないこの俺が、複数人の女の子の機嫌を取ることなんてできるはずがないと思うんだが。
「まず最初に正妻を決めるところで揉めないか?」
「たしかに、この『辺境サンゴ』は少し特殊だからな……だが決めないと面倒なことに……」
それきり言って、サクラは俯いてそのまま何やら考え込み始めた。
そしてハッとしたような顔をしてから、名案を思いついた発明家のような顔をした。
「いや、別にアルノードが貴族になるつもりがないんなら、好きにやってしまえばいいのか」
「そりゃ、貴族になるつもりは毛頭ないけども……」
どうやら私の貴族家の常識が邪魔をしていたらしい。
そう前置きをしてから続ける。
「アルノードは別に貴族になるつもりもない。ということはこのリンブルの相続法に伴って適当に財産分与をするわけだ」
「まあそうなるな」
いきなり結婚後の話をされ、実感は湧かないながらもとりあえず頷いていく。
もちろん付き合うなら結婚を前提にというのは当たり前の話だろうが、少々一足飛びが過ぎる気もするが……先を見据えたお付き合いってのも大事だよな。
「別に嫡子を決めたりする必要もないわけで、別に何人子供を作ってもアルノードとしては問題がないわけだ。そもそもその全員に、孫の代まで暮らせるくらいの遺産が入るだろうしな」
たしかに俺の今の懐事情は、物凄いことになっている。
換金していないだけで死蔵していた魔物の素材は高値で売れるし、作った魔道具はもっと高値で売れる。
子供を無分別に作っても、多分全員にかなりの額を渡せると思う。
俺が死んで遺産の額で揉め事を起こすようなことには、なってほしくはないけど。
「要はアルノードは爵位を持たない豪商みたいなものだろう? 色んな物を売って巨万の富を得ているわけだし、立場なんかはかなり近しいはずだ。そしてアルノードは騎士でも貴族でもないんだから、別にリンブルに対して責任ある立場ではない」
「……だな、サクラを預かっている分アルスノヴァ侯爵に責任はあるし、冒険者クランとしての責任もあるが、そこまで大きなもんじゃない」
「つまり、何をしてもいいわけだ。アルノードが責任を持つ必要があるのは、『辺境サンゴ』のみんなに対してだけというわけだ」
俺は責任ある立場になるのが嫌で、貴族になるのなんかはお断りしたわけで。
まあ色々と紆余曲折あったものの、今では防衛なんかもリンブルの人達にほとんど任せることができているので、俺は今責任の二文字からは解放されている。
デザントと戦争になった時に、オリハルコン級冒険者として戦時に指名が発生したりはすると思うが、別にそれは元から戦うつもりだから、責任とはまた少し違うしな。
俺が責任を負うのは『辺境サンゴ』のみんなだけ、か……。
サクラの言葉は、今の俺の心に凄く刺さった。
元はと言えば、俺が冒険者クランを作ろうと思ったのは、二等臣民として搾取される生き方しか知らず、また世渡りもできなさそうな第三十五辺境大隊のみんなにちゃんとした生活を送ってもらいたいという気持ちが強かったのだ。
言わば俺は責任を負う……というか彼ら彼女らの人生を背負うために、リンブルでこうして冒険者クランをやっている。
要は、俺はエンヴィー達の幸せのために頑張ったわけだ。
で、そんな俺が彼女達を不幸にしようとしている。
その解決策は、俺がちょっとばかし納得すればいいわけだ。
俺の倫理観がちょっと下町過ぎるだけで、ある程度金がある人間であれば嫁を複数もらうことはなんら法律違反じゃない。
俺は貴族にはならないから、正妻や側室、世継ぎなんかによる継承問題も起こりづらい。
ただの嫁子供多数の大家族として暮らしていけばいいだけだ。
……うん、そうやって考えればそれほど問題ではないような気もしてきたな。
なんだかサクラに上手く乗せられているような気もするが、あんまり深く考えすぎたら絶対動けなくなるし。
まずはとりあえず、頭空っぽにして動いてみようか。
みんなにも話を聞いて、なんとなく俺なりに結論を出せばいい。
「私は……アルノードのことが好きだ。できれば私だけのことを見てほしいと思っている。けれど……お前を私一人で独占できるほど、このサクラという人間は大層な人物ではない」
「そんなこと言うなよ、サクラも十分魅力的だぞ」
「そ、そうか……?」
「そうだ」
なんだか自然に言葉が出てきた。
サクラもそんな風に考えることがあるんだな。
基本的には自負心が高くて、プライドがあって、でもしっかりと他人から学ぶ向学心もあって……。
でも結構うぶというか世間すれしていないところがあって、俺は彼女のことが好きだ。
……うん、好きだ。
誰かに順位をつけたりすることはできないけれど、それでもサクラが好きという事実は変わらない。
こうやって認めてしまえば、案外楽になってくるものなんだな。
なんだか新しい発見をした気分だ。
「サクラ、ちょっと出掛けないか?」
「え? う、うん、構わないが……」
俺はまずはサクラと、ゆっくり話をしてみることにした。
そこから見えてくるものが、きっとあるはずだ。
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