提案
別荘へ戻ると、時刻は午後五時になろうかというところだった。
酔っているという自覚があるからか、みんな自室に引きこもって思い思いに時間を過ごしているようだ。
一人で馬鹿デカいリビングにいても虚しいだけなので、俺もとりあえず自室に引きこもることにした。
また夜になればみんな騒ぎ出すんだろうが……少し不気味なくらいに静かだ。
普段使っているものよりもワンサイズ大きなベッドへダイブし、そのまま仰向けになる。
後ろで手を組みながら見上げる天井はいつもより高く、そして無機質だった。
今はまだ日が長いため、空には未だ太陽が浮かんでいる。
日が出ているのなら、もう少しくらい何かをするべきだろう。
けれど今はなんだか、外に出て何かをしようという気にはならなかった。
そういえば主の話、みんなにしそびれてしまったな……。
(誰か一人を選ぶ……なんて難しいんだろう)
王様ゲームをやったあとの俺の頭の中は、つまるところそれでいっぱいなのだ。
エルル一人から告白を受けたのなら、多分俺はしばらく悩んでから、結局彼女と付き合うことになっていたと思う。
けれどどういうわけか、エンヴィーたちまで俺のことを好きだと言いだした。
それも、真剣な眼差しで、拳を握りながらの真剣にこちらに訴えかけながら。
真剣な気持ちには、こちらも真剣に応えなければ不調法というもの。
だがそうなると、誰を選ぶのかという話になってくる。
俺はエルルが好きだし、エンヴィーも好きだ。
セリアだって好きだし、サクラだって好きだし、ライライも好きだ。
上司と部下としてだけじゃなくて、多分異性的な意味合いでも好きだ。
彼女たちに女性的な魅力を感じたことやふとした瞬間にドキリとさせられたことは、一度や二度ではない。
彼女たちの中で、一番好きな人……。
やっぱりエルルか?
彼女はいつだって、俺の近くにいてくれる。
俺の考えをちゃんと理解し、望むように動いてくれる、良き理解者でもある。
見てくれだって悪くない……いや、めちゃくちゃいいと言い切ってしまおう。
料理や裁縫なんかもできるくらい家庭的で、家に入ることがあっても何一つ問題は起きないだろう。
俺がそういうところはわりとズボラな人間なので、ちょうどいいバランスになるはずだ。
付き合ってきた期間やものの考え方、一緒にいて楽しいかどうか……そういった諸々の要素を総合的に見てみれば、多分エルルと付き合うのが一番いいと思う。
婚活しろって話だったけど、エルルなら多分付き合っているうちに気付けば結婚しているような気がしているし。
彼女は案外そういうところ、抜け目がないから。
これは気が早いとは思うが、きっと結婚生活も楽しいはずだ。
子供とかを作って、どこかでゆったりとした暮らしをして……。
でもどうしてだろうか。
何かが心にひっかかるのだ。
誰かを選ぶということに忌避感があるのか?
何かを選択するということは、それ以外を切り捨てるということだから。
俺は悩んでいる。
けれどいったい何について悩んでいるのか、本人なのにさっぱりわからない。
答えの出ないものを考え続けるのは、苦手だ。
魔物を倒せばそれでオッケーという方が、どれほど楽か。
ぼーっとしながら天井を眺めて、ぐるぐると頭を回す。
そんなことを繰り返しているとさすがに袋小路に入り込み、思考がループし出した。
これ以上は建設的じゃないな……と思い、部屋を出る。
また外に出ようかと考えていると、ダイニングにサクラがいた。
彼女も俺のこと、好きって言ってたよな。
さっきからまだそんなに時間も経っていないし、同席しても問題はないだろうと思い、向かいの席に座る。
サクラがこちらを見て笑う。
今までまったく意識してこなかっただろうか。
急に彼女が女性なのだという事実が、強かに俺を打ちのめす。
「どうしたんだ、アルノード」
「いや……サクラって、女の子なんだなって思って」
「ふふっ、なんだそれは」
下手をしたら変な意味にとられかねない言葉だったが、どうやらサクラが気分を害した様子もない。
彼女に悩みを話すのは違う気がする。
こういう時って、誰に話すのが正解なんだ。
俺、恋愛相談とかコイバナなんかとは無縁の人生を生きてきたからな……そういうことを話せる友達なんかいないし。
多分同性の方がいいだろうからシュウになるんだろうが……あいつに色恋のことを聞いても魔道具のことしか喋らないだろうし。
だとしたら……普通に平のメンバーに聞くか?
でもそんな、実は『辺境サンゴ』の中でドロドロした恋愛模様が繰り広げられてるとか知られたりしても嫌だし……ソルド殿下に話すのはさすがに不敬だと思うし。
またぐるぐると思考が空転しはじめたが、それをサクラがすぐに止めてくれる。
「アルノード、いい答えを教えてやろうか?」
「いい答え?」
「ああ、きっと今のアルノードは誰を選ぶかで悩んでいるんだろ?」
「……ああ。誰を選ぶかというよりは、誰を選ばないのかという部分を悩んでいる」
「味方を切り捨てることのできない、お前らしい答えだな」
答えがあるのなら、ぜひとも教えてほしい。
そんなものが存在しないからこそ、俺はこうやって悩んでいるというのに。
「なに、簡単な話だ――」
眉間に皺を寄せる俺を見て、サクラが笑う。
そしてなんでもないような顔をして、とんでもないことを言いだした。
「一人正妻を決めて、お前を好きと言っている他の女の子を全員側室にしてしまえばいい。ハーレムを作れば万事解決だ、アルノード」
「――っ!?」
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