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対価


「ふぅ……」


 王様ゲームが終わり、とりあえず一度も王様になれなかった俺がぶっちぎりのビリになり、会はお開きとなった。


 俺は熱気むんむんだった別荘を後にして、一人外で風を浴びながら酔いを覚ましている。


 太陽はまだ高いところにあり、時刻は午後三時前後。

 こんな時間から飲んだくれることができているんだから、幸せな暮らしができてるんじゃないだろうか。


「隊長、お疲れ様ネ」

「ライライか。……お前のせいでめちゃくちゃになったじゃないか」

「あっはっは、ごめんネ~」

「『辺境サンゴ』で禁酒令でも出してやろうか」

「――それは、本っっっっ当に困るヨ!!」


 ライライは少し酔っているようだが、彼女が酔っているのはいつものことなので気にしない。

 あれだけ常日頃から飲んでいて、身体は大丈夫なんだろうか。


 酒は人間の身体には毒と聞くから、もしかするとライライの身体は全身酒浸りでボロボロになっているかもしれない。


 気休めかもしれないが、とりあえず回復魔法でもかけておいてやるか。


「ふわ~、お酒飲んでる時みたいダヨ~」

「いや、現在進行形で酒飲んでるだろ」

「そうとも言うネ」

「……他にどんな言い方が?」

「細かいことは気にしない方が吉ネ。細かい男は嫌われるしハゲるで、良いことないヨ」


 ライライが切り株に座り、髪に手を当てる。

 どこか遠くを見ているその青い瞳は、ラピスラズリのように美しい。


 風でなびく髪を手で押さえて、少しだけ目を細める。

 横から眺めると、美人画になりそうな構図だ。


 こいつは喋ったり酒飲んだりしなくちゃ、本当にただの美人さんなんだけどな……。


「隊長は相変わらずモテモテネ、万年この世の春を迎えてル」

「俺にモテ期なんかあったか?」

「自覚ないのも考えものヨ。みんなの好き好きラブ光線に、隊長全然気付いてなかったからネ」

「好き好きラブ光線……」

「ちゅっちゅラブビームでもイイヨ」

「いや、言い方の問題ではなく」


 たしかに好意を向けられる場面は多々あった。

 けどそれを、異性的な好意としてはとらえていなかった。


 結果として、間違っていた……というか、勘違いしていたのは俺の方で。

 みんなが俺のことをそういう目で見ていた……。


 酔った席のこととはいえ、みんなの表情は真剣だった。

 勘違いと自分に言い聞かせるのにも、さすがに無理がある。


「どうすればいいんだろうな……」

「……さぁ? それを決めるのは隊長だけだからネ」


 エンヴィーたちのことが好きかと問われれば、間違いなく好きだ。

 かわいいし、真っ直ぐだし、女性自体あんまり得意じゃないけど、気安く接することができるし……。


 エルルに告白されたのだって、普通に嬉しかった。


 かわいい女の子に好きですと言われて、喜ばない男などこの世には存在しない。

 いるとすれば、そいつは男ではない。


 けれど俺は、エルルの告白にすぐにオーケーを出さなかった。


 彼女のことは好きだが、そもそもパートナーとして見たことがなかった。

 でもきっとそれすらも言い訳で、俺はきっと、今の関係が壊れてしまうのを無意識のうちに恐れていた。


 俺がエルルと付き合ったとしたら、きっと『辺境サンゴ』のメンバーたちの関係性に変化が出てくるだろう。


 エルルが成果を出して報酬をもらうようなことがあっても、


「あの人はアルノードさんの彼女だから……」


 などと、正確な評価をされなくなってしまうかもしれない。


 もしかするとエンヴィーたちよりも一段立場が上になるかもしれないし、そのせいで幹部達の仲が悪くなってクランが空中分解してしまうかもしれない。


 そしてもし、付き合った俺とエルルが別れたとしたら。

 それは絶対に、しこりになって残る。

 職場恋愛の悪い部分ってやつだな。


 きっと以前のようなものには、もう二度と戻れなくなってしまう。


 付き合えば、それが続こうが続くまいが、きっとクランは変わってしまう。

 そんな予感があったから、すぐに答えを出すことができなかった。


 そして、こんなことを考えている時点で、本当にエルルのことが好きなのかという疑問も湧いてくる。


 もっと、恋というのはこう……情熱的で、他のことなんか全部擲ってもいいと思えるようなものじゃないのか。

 だとしたら俺の好きは、恋愛感情とはまた違うんじゃないか。



「隊長は面倒くさい男だネ」

「自覚はあるよ」

「そしてそんなんがモテるんだから、世も末ヨ」


 ライライは、俺に遠慮なくものを言ってくれる数少ない人間の一人だ。


 彼女は見た目はバリバリ働いているキャリアウーマンで、身長も高く、おまけに俺よりも年上だから、つい色々と話せちゃうんだよな。

 中身はただの飲んだくれなんだけどさ。


「でもそういうところが……放っておけなくなる」

「そ……そうか?」

「うん。別に無理して、誰か一人を選ぼうとしなくていいんじゃないかな?」


 気付けばライライは立ち上がり、近くまでやってきていた。

 俺よりも少し低い背丈の彼女は、上目遣いをしながらこちらを見つめている。


 いつもの口調は鳴りを潜め、ライライは珍しく真面目そうな顔をしていた。

 なぜだか距離が近い。

 というかこのシチュエーションには、なぜか覚えが――。


「ん……」


 グイッとしたから、唇を押しつけられる。

 途切れた意識が戻ってきた時には、既にライライは離れていた。


 俺から距離を取る時の彼女は、自分の唇に手の甲を当てて、顔を赤くしている。

 滅多に見ることのできないライライの照れ顔は、普段とのギャップがすごかった。


 ライライは俺に背を向けて駆け出し、更に距離を取る。

 そしてくるりと振り返り、こちらに手を振る。

 その時にはもう、いつもの優しい顔つきに戻っていた


「お姉さんに相談を持ちかけた対価ネ。ライライはタダで言うこと聞いてあげるほど、安い女じゃないから。……それじゃあ隊長、また後でネ!」


 ダダダダッと、ライライは走り去っていってしまった。

 またキス……されてしまった。


「俺はいったい、どうすれば……」


 その問いに答えてくれる人は、今度は誰もいなかった――。



本作は以後、毎週火曜日更新とさせていただきます。

引き続きよろしくお願い致します!


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