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熱い


「そ、そうか……」


 その好きっていうのは、あれだよな。

 恋愛的な方向ではなく、友人としてとか良き上司としてとかの、そういうあれだよな?


 そんな風に考えていた俺の予想を、エルルは真っ向から木っ端微塵にする。


「アルノードさんのことが、好きです。頼れる隊長や信頼できる上司としてじゃなくて……一人の異性として好きです」

「――っ!?」


 それはあまりにも直接的な告白だった。


 エルルが俺のことを……好き?


 いや、もちろん好かれていることはわかっていた。


 好意的な視線を向けられることは多かったし、俺と仲良くしている女の子を見てジェラシーを感じているような場面もあった。


 でも俺はその好意は、兄的であり目上の人に持つものだとばかり思っていたんだ。

 でもエルルは異性として、俺のことを好きなのだという。


 そう言われると、思い当たるようなことがいくつもあった。


 多くの誘いを受けても、未だエルルがフリーでいる理由。


 以前勢いで迫られたこともあったし、俺が自制心でなんとか何もせずに我慢したことも一度や二度ではなかった。


 エルルは何かと俺についていこうと頑張っていたし、外様の人間には見せないような満面の笑みを俺に見せてくれる。


 ……こうやって冷静に考えてみると、あまりにも思い当たる節が多すぎるな。

 もしかして俺は……朴念仁なんだろうか。


 いや、そうじゃない。

 もしかしたら俺のことが好きかも……なんて考えても、いやそんなはずはないといつだって内心で否定してきたからだ。


 まさか俺なんかのことを、誰かが好きになってくれるだなんてことがあるまい。

 思い上がるなよ、アルノード。


 以前告白してフラれてからというもの、俺は基本的に恋に奥手だった。


 自然、相手の好意にも鈍感になり、行動にもブレーキがかかっていたんだろうな……多分。


「そうか、エルルは俺のことが好き、なんだな……」

「はい、伝わりませんでしたか? 結構恥ずかしいこととかもした記憶があるんですが……」


 エルルに迫られた時は、いつだったか。

 だが思いだしてみれば、たしかに「こんなのもう裸じゃないか!」というようなスケスケのネグリジェで一緒に寝て下さいと言われたこともあった。


 あの時はそういうんじゃないそういうんじゃないと必死に自分に言い聞かせて、なんとか何もせず添い寝したまま朝を迎えたっけ……そっか、別にあの時もそんなに無理して我慢する必要はなかったのかもな。


「考えてみれば……うん、そうだな」

「アルノード……は、今好きな人とかいるの?」


 急に呼び捨てにされて、思わずドキッとする。

 サクラがしているからいいじゃないと言われて、まあたしかにと思う。


 彼女は公私をきちんとわけてくれるタイプだから、私的な場では好きに話してくれて構わない。

 平のメンバーがいるところでやられたりしなければ、なんでもいいさ。


「好きな人か……それがいないから、婚活とか頑張ってみようかなって思ってるんだよな」

「ほら、婚活なんかせずともこんなにかわいい女の子が『好き好きちゅっちゅー』って言ってるよ?」

「いや、ちゅっちゅーとは言ってはないだろう……」

「ちゅっちゅー」

「後付け!?」


 時刻はまだ昼。

 川にキラキラと陽光が反射して、かなり眩しい。

 そんな反射光を背にしたエルルは、まるで物語の女神様のようにきらびやかに見えた。


 今までずっと言うのを我慢してきたからなのか。

 今のエルルは、なんだか吹っ切れていた。


「アルノード、前に言ってたよね。好きな女の子のタイプについて」


 そんなことを言っていたっけか。

 自力では思い出せなかったが、言われてああとようやく思い浮かべることができた。


『かわいくて、家庭的な子かな。あと何かを頑張ってる人は素敵だと思う』


 うん、たしかに言ったな。

 そしてこの条件……恐ろしいほどにエルルに合致している。


 え、俺が好きな人って、もしかしてエルル?


 そう思ってしまうほどの完全な一致だ。


「私は割とそこの条件は満たしてると思う。だから……付き合ってくれると、嬉しいな」

「俺は――」

「別に今すぐ答えを出してほしいわけじゃないの。それに明日になったらまた、いつものエルルに戻ってるから……」


 キュッと手を繋がれる。

 いわゆる恋人繋ぎというやつだ。


 そして、頬に小鳥がついばんだような軽い感触。

 何をされたか理解した時には、既にエルルは数歩離れた距離にいた。


「――また、あとで!」


 顔を真っ赤にしていたエルルは、それだけ言うとすごい勢いで走って行ってしまった。

 俺はぽつんと一人で残される。


 答えを出す間もなかった。

 エルルももしかしたら、今答えを出されるのが怖かったのかもしれない。


「……」


 俺は何も言わず、何も考えることができず。

 ただ頬だけが、妙に熱くて。


 先ほどの感触が残っている頬に、自分の手のひらを当てるのだった――。



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