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主釣り


「うおっ、本当だ!」


 見れば極太の釣り竿が、まるで先っぽだけを強引に引っ張られている時のように大きく曲がり始めている。


 こんなバカでか釣り竿をここまでしならせるとなると、さすがに主しかないだろう。

 どうやらさっそく当たりを引いたらしい。


 俺はしなって少し位置が変わった持ち手を急いで掴んだ。


「こいつっ、かなり重いぞっ!」


 まず何もせずに引き上げようとすると、身体が逆に持っていかれそうになるほどに強かった。

 即座に気力によって身体能力強化を発動。


 だがそれでも……まだ足りないか!


 気力によって出力が上がるスピードは速くないから、このままだと俺の力が上がりきる前に負けてしまう。


 だからといって魔闘気を使うためには集中する時間がいる。

 そしてこの主はそれを悠長にまってくれるほど殊勝なやつじゃない。


 即座の判断で俺が取った行動は――救援要請だった。


「エルルッ、こっちに来てくれ!」

「は、はいっ!」


 持っている部分を少し上の方に変え、エルルを俺の前に。

 一人では駄目でも、二人でならきっとできるはずだ。


「行くぞエルル、全力だ!」

「はいっ! うおおおおおおおおっ!」

「ふんぬううううううっ!」


 俺とエルルは二人がかりで、とにかく竿を引っ張った。

 ただ引っ張るだけでなく、糸が切れてしまわぬよう手心を加える必要もある。


 適宜糸を伸ばしたり縮めたりしながら、徐々に主がこちらに来るように心がけていく。

 釣りは戦いだとトウジは言っていたが……まさしくその通りだな。


 最初に力を出しすぎれば、魚は逃げてしまうとも言っていた。

 けれど俺達の場合、出力が徐々に上がっているからな。

 ちょうどそれが徐々に力を上げるという形になってくれている。


「ふんぬううっ!」

「あ、見えてきました!」


 必死に歯を食いしばりながら釣り竿を持っている俺の目の前にあった魚影が、たしかにかなり大きくなっている。

 このサイズ感はたしかに……ちょっと普通じゃないぞ。


 影はどんどん大きくなっていき――そして影の大きさが川幅を明らかに超えて、影が川を通り越した。


「な、なんですかこれっ!?」

「多分この主は空間属性の魔力を使える! 『収納箱』と同じ原理だ!」


 この主の目撃情報が食い違っているのは、恐らくこの主が亜空間を拡げて、自分の身体を空間の膜の中に取り込んでいるからだろう。


 ちなみにこの主の力は、俺が主釣りを決意した原因の一つでもある。


 普通は生き物を空間魔法で作る亜空間の中には入れられない。

 もしこの主を生きたまま捕らえて研究することができれば、生物を『収納箱』の中に入れることができるかもしれないからな。


 こちらが引くと、あちらが更に強い勢いで引く。

 グルグルと、明らかに川幅よりも大きな魚が、その場で回遊を始める。


 主のサイズと川のサイズが合っていないせいで、あり得ない光景が目の前に広がっていく。 


 川に映る魚影が半分に切れたり、尻尾しか残らなくなったり。

 明らかに地面の部分に魚影が移動し、釣り針が土の中に埋まっているように見えたり。


 釣り好きからすれば、こんなものが釣りであってたまるかと言いたくなるような不思議な光景が繰り広げられている。


「ぐっ、あと……」

「少し、ですっ……」


 だが着実に、俺たちと主の距離は近付いていた。

 そして魚影が更に大きくなり……。


 ザパンッ!


「おっ!」

「見え――」


 水しぶきが上がり、主の顔が一瞬だけ見える。

 顔に角張ったシワが刻まれている、灰色の魚。

 えらのあたりがピンク色で、そのサイズは想定していたよりも一回りも二回りも大きい。


 再度主は潜行し、俺たちは再び格闘へと戻ろうと――。


 ブツンッ!


 けれど俺たちが釣り上げることに成功するよりも早く、釣り竿の方が耐えられなくなってしまった。

 糸が千切れ、それに呼応するように鉄製の竿が明らかに元に戻らないほどに大きく曲がってしまう。


 そして勢いよく後ろに竿を引いていた俺たちは、力の行き場がなくなったことで大きく後ろに吹っ飛んでしまう。


 その間にも主の影はどんどんと小さくなっていき……そして消えてしまった。


 くっ、失敗したか。


 鉄では駄目だったらしいから、もしやるんなら

主釣り用にミスリル製の竿くらいは作らないといけないかもしれないな。


 ゴロゴロと転がっていた俺とエルルは、立ち上がって砂を払う。

 そして向き合って……どちらからともなく笑い出した。


「面白かったです!」

「うん。釣りとは別の遊びだったような気もするけど……たしかに面白かったな」


 主との激闘の後に普通の釣りをする気にもならず、俺とエルルはその辺をぶらつくことにしようという話になった。


「エスコートして下さい」

「ああ、わかったよ」


 エルルの手を取って歩き出す。

 俺たちは日差しを浴びながら川縁を散歩し始める――。



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