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しなってる!


 川へとやってきた。

 特に名前はついてないらしいので、シンプルに川と呼ばせてもらう。


 今回は随行員はなしの、男の一人釣りである。

 一人の時間も大切だよな。


 一応釣り竿は、竹製と鉄製の二本を持ってきている。


 まずは竹の方で釣ってみる。

 ルアーもあったが、生き餌の方が好きなので、今回は使わない。


「……おっ、手応えあり」


 竿を入れてそれほど時間が経たないうちに、手に重たい感触が来る。


 竹が折れないよう力加減には気を付けながら引き上げると、無事に釣れた。

 釣り針が口をあたりを貫通している。


 どうやらここに来て、釣りをしている人間はそれほどいないようだ。


 魚というものは、結構賢い……らしい。


 俺の釣りの知識は、釣り好きのクランメンバーであるトウジってやつ発信のものなので、俺自身はまったく詳しくない。


 ただ魚っていうのは、釣りに来る人がいっぱいいるような場所だと、釣られてしまうことに気が付いて、餌に食いつかなくなるらしい。


 釣りとは魚と人間との知恵比べなのだ、と彼は言っていた。


 ちなみにトウジは休みの日には必ず釣りに出掛けている。

 そしてもらっている給金の大半は、釣りグッズに使っているので真生だ。


 ここらへんの魚は、生き餌を見たらすぐに飛びついてくる。


 ということは人慣れしていないということ。

 慣れる前に釣った方がいいだろうな。


 今度他の隊員も引き連れて来てみようか。

 みんなで釣りの大会をして、釣果を競ったりしても面白いかもしれない。




 もう数匹ほど釣ったところで、俺は本来の目的を完全に忘れていることに気付いた。

 いかんいかん、俺が目指すのはあくまでも主だ。


 それ以外はアウトオブ眼中、主一本狙いだったはずじゃないか。


 鉄製の釣り竿を持ち、多分蜘蛛型魔物の糸を使っていると思われる釣り糸を伸ばす。

 どこらへんに投げたらいいかわからないので、とりあえず遠くに投げてみた。


 すぐにヒット。

 引き揚げてみるが、もちろん釣れたのは普通の川魚だった。


 普通の生き餌だと、魚に食われるな……。

 主がどういうものを好むのかがわからないし、色々試してみるか。


 俺の見立てでは、主は十中八九魔物。

 魔物が好きな物は……まったく知らないな。

 生態とか興味もなかったし。


 ただ魔物って、共食いもするし、別の種族同士で争ったら、敗者を生きたまま食らったりもする。

 となると使う餌は、魔物の素材の方がいいか。


 ゴブリンはゴブリンの肉をそんなに食わない。

 けれどオークやオーガの肉はわりと普通に食っている。


 となると魚系の魔物以外のものにした方がいいだろうな。

 普通にオーク肉とかにしとくか。


 餌の大きさは、どうするべきか。

 少し悩んだが、手のひらにギリ乗らないくらいのブロック肉にした。


 巨大な魚となると、小さな肉では見向きもされないだろう。

 けどデカすぎたらフィッシュしないし……ということで、まずは少し小さめだ。


 実際に主に遭遇することができたら、またそのあとで微調整すればいいしな。





「あ、アルノードさん。調子はどうですか?」

「……誰かと思えばエルルか、もう体調はいいのか?」

「はい、絶好調です」

「そこのバケツに川魚が入ってる。けど肝心の主の方はさっぱりだな」


 エルルが俺の隣に腰掛ける。

 ふわりと良い香りがして、少しだけ心臓の音が早くなった。


「……」

「……」


 エルルが俺の横顔を見ているのがわかる。

 なんとなく所在がなく、俺の方はじっと釣り竿を見つめていた。


 別荘に来てから、彼女はわりと本調子に戻ってきている。

 今両手で顔を押さえながら俺のことをじーっと見つめている彼女は、いつもと同じ様子だ。

「俺の顔に何かついてるか?」

「顔がついてます」


 何が面白いのか、エルルがカラカラと笑い出す。

 よくわからないが、楽しいならそれが一番だ。


 竿を見続けるが、相変わらず食らいつかれた感触はない。

 ちょんちょんと微妙に動いているのは、多分ブロック肉を魚達がつついて食べているからだろう。

 もうちょっとしたら一度上げて、肉を替えなくちゃな。


「どうせなら、今ここで焼いて食うか?」

「……いいんですか?」

「どうせ人数分はないし、それなら今食った方が問題が起きなくていいだろ」


 人間が生活音を立てると魚は逃げていくらしいが、まさか主が焼き魚を作るような小さな音で逃げるほど、小胆なはずもない。


 『収納袋』から加熱用の魔道具を取り出し、その上に魚を乗っける。

 焦げ目がついたあたりで裏返して、もう一度裏を見れば完成だ。


 実はこうして獲れたての魚を食うのはこれが初めてだ。

 泥抜きした川魚の煮付けとかなら食ったことはあるけど。


 川魚は癖が強い物が多いと聞くから、ハーブの入った塩を振ってみる。

 匂いは……普通の魚と変わらないな。


 とりあえず食べてみる。

 ……うん、美味い。


「大自然を見ながら釣った魚を食う。なんというか、自然に包まれてる感じがしていいな。ほれ」

「あ、ありがとうございます……美味しい」


 基本肉料理ばかりで、魚系はとんと試してこなかったが……ただ塩を振ってこれなら、もうちょっと魚料理も食べるべきかもしれないな。


 デザントにいた頃は食事代が高いから尻込みして食ってなかったけど、今なら財布は気にしなくていいし。


 エルルと談笑しつつ、釣った魚を新たに魔道具に乗せる。

 魚醤を使って焼いてみると、ものすごく良い匂いが漂ってくる。


 さて、それじゃあさっそく食べ――。


「あ、アルノードさんっ! 竿が、竿が物凄くしなってますっ!」


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