バカンス
「アルノードさん、リゾートに行きましょう!」
なんだか最近、エルルが室内に引きこもることが多くなってきた。
理由はよくわからないが、とにかく体調が悪いそうだ。
だから定期的に見舞いに行っては、回復魔法をかけたりしていたんだが……俺がソルド殿下との通信を終えて戻ってくると、彼女は今までの調子の悪さが嘘だったかのような活発な様子へと変わっていた。
俺に見えるように宿泊券をひらひらさせているその様子を見れば、エルルが復調したことはすぐにわかる。
なんにせよ、よかった。
でも……リゾート?
早口でまくし立てるエルルの言葉を噛み砕くと、どうやらこれはアルスノヴァ侯爵の粋な計らいというやつらしい。
ガードナーで仕事のストレスから解放され、のんびりライフを満喫。
そしてそのゆっくりとした時間の流れに飽きてきたところで、リゾート地への招待。
二泊三日で、川沿いのコテージの予約をしてくれているようだ。
エルルの機嫌が直ったのはこれが原因か。
俺も何かプレゼントとかをあげればよかったかもしれない。
いや、どうせなら向こうで何か買って渡してあげればいいか。
――というわけで、やってきましたリゾート地へ!
気分が洗われるというか……こういう旅行って、のんびりするのとはまた違った良さがあるよな!
ちなみに来た面子は、『辺境サンゴ』の中でも俺と同じ屋敷で暮らしている三十人弱になる。
シュウも誘ったのだが、そんなことより魔道具をいじっている方が楽しいからと断られてしまった。
なのであいつ以外の主要な面子は基本的に来ている形だ。
そういえば最近は遠出というか別の屋敷なんかにお呼ばれしたりする機会も増えていて、彼女たちと一緒に遊んだりする機会は減っていた。
飯食う時は一緒だし、別に疎遠になったわけではないのだが、話す機会はたしかに前と比べれば少なくなっている。
なのでこの二泊三日ではその不足を解消し、みんなと仲良くなれたらと思う。
「アルノードさん、ノリノリですね!」
「ああ、なんだか年甲斐もなくはしゃぎたい気分でな」
考えてみると、こういう旅行っぽい旅行は一度もしたことがない。
俺の場合それは出張だったり転勤だったり、最近は働ける場所を探すための放浪だったりと、移動の理由がかなり現実的なものばかりだった。
楽しむことを目的としてどこかへ行けるだなんて、小さな頃は考えたこともなかった。
俺も大きくなったものだなぁ……。
旅行に一度来るくらいでこんな風に思ってしまうあたり、まだまだ小市民ではあるんだろうけどさ。
馬車を降り、コテージの管理人さんや掃除をしてくれているらしいメイドさんたちと一通り挨拶をしておく。
どうやらこの施設自体、アルスノヴァ侯爵の息がかかっている場所らしく、何をしても見なかったことにするから好きにしてもいいという旨の説明を受けた。
有力者の力ってすごいな……。
朝昼夜のご飯が出る時間や、出てくる猫ちゃんに餌をあげてはいけないことなどの、普段は聞かないような注意事項を受けてから部屋へと向かう。
基本的に二人一部屋なんだが、みなが気を遣い俺だけ一人で一部屋を使わせてもらうことになった。
中へ入ってみると……うーん、広い。
そしてなんだか涼しい。
窓を開けて身を乗り出し、外を出てみる。
するとすぐ近くに、川が流れているのがわかった。
さすがに直には見えなかったが、さらさらという水の流れる音が聞こえてくるのだ。
これ、洪水の時とか大変そうだな。
氾濫がある度に毎回建て直しているんだろうか。
いや、一応雇用の創出にはなるから、公共事業としてやるんなら……。
「ちょっとアルノードさん、また真面目なこと考えてる」
「え、エルル、いつの間にっ!?」
「ノックしたんですけど、反応なかったんですもん」
背筋を使って上体を戻すと、そこにはエルルの姿がある。
肌の色はいつもよりも白い。
化粧……いや、日焼け止めか?
でもまったく気付かなかった……腕を上げたな、エル――。
「ほらほら、行きますよっ!」
「ちょっ、今日はなんだか強引だなっ!?」
そして俺はエルルに引きずられながら、別荘を後にすることになる。
ゆっくりするつもりだったんだが、仕方ない。
元気なら、それでいい。
―よし、今日は俺もめいっぱい楽しむぞ!
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