婚活
「あ、アルノード。お前はまだ動く必要はないぞ」
「……そうなんですか?」
ガクッと肩を落とすと、ソルド殿下は笑う。
「別に使者を首だけにして返されたわけでもない。最低限度の対応しかされなかったせいで、交渉の余地がなかっただけだ。まだそこまで急いでいるわけでもない。今はまだ南公に注力する時期だと思っている」
てっきり俺たちを北伯の領地へ視察なり交渉なりに向かわせるという話になると思っていたのだが、どうやらそうではないらしい。
いずれは……とは思っているらしいが、今はまだ時期尚早という考えのようだ。
何が起こっているのかよくわからないというのはたしかに怖いが、大事にはしたくない感じらしいな。
考えてみれば使者経由で情報が来なくとも、御用商人なり密偵なりから、ある程度の情報は手に入れることができているはずだ。
今後もそれは続くはずだし、無理をする必要はないという考えらしい。
どうやらソルド殿下は、俺をそこまで頻繁に動かしたくはないようだ。
やはり所詮は外様だからか……と自分を卑下したりすることはない。
俺は伝家の宝刀なのだ。
いや、殿下の宝刀というべきかもしれない。
……どうだろうか、これ。
自分では結構センスあると思うんだが。
「二点だな」
「何点満点で、でしょうか?」
「講評は控えさせてもらおう」
パッと素晴らしいジョークが頭に浮かんだせいか、思わず口走っていたらしい。
ソルド殿下は、噴き出したりはせずに苦笑している。
「とりあえず、アルノードの意志を尊重し、なるべく政治に関わらせない立場に置かせてもらう。その代わり有事の際に俺の矛として働いてもらうつもりだからな」
「はい、ご配慮ありがとうございます」
とりあえず事務的な話を終え、個人的な話をすることになった。
『通信』の魔道具の魔力消費はかなりエグいが、魔石なら腐るほどある。
木材が安いところで、別に大して寒くなくとも薪を焚くという。
俺と殿下もそんな感じで、魔石をジャブジャブと使い込んでいた。
「殿下のお子さんの方はどうなんですか?」
「不肖の息子でな……あいつに王位を継がせても、まず碌なことにはならないだろう。そろそろ学園に通う年齢だが、学友たちの悪い影響を受けないか心配だよ……」
ソルド殿下には息子が一人と娘が二人居る。
殿下は割と晩婚な方なので、子供は三人とも成人していない。
どうやら年を取ってからできた子供のせいか、心配でたまらない様子だ。
こういうところはやっぱり、人の親って感じだよな。
殿下の所帯じみた話や息子の苦労話を聞く時間を過ごした。
そのままそろそろ俺も結婚の一つや二つしろと殿下にはまた催促されてしまった。
……でもどうしてだろう。
今までほど、結婚に対する「まあ、今はいいかな」感が消えている。
クランメンバーの恋愛話や将来設計についての話を聞いたからだろうか。
それともサクラと一緒にメンバーが子持ちになってからの話を詰めていたからかもしれない。
うーん、結婚か……。
いや、結婚はまだ早くとも……交際の一つや二つくらいは、しておいた方がいいのかもしれないな。
でも付き合うって……いったいどうすればいいんだ?
好きでもない相手に告白するのは、なんだか不義理な気がするし。
難しいことを考えているうちに、殿下との通信は終わった。
明日から……婚活頑張ってみようかな。
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