地方分派
「アルノードには地方分派の勢力図について、あまり詳しい話をしたことはなかったよな?」
「ええ。寡聞にして、市井に聞こえてくるくらいの情報しか知りません」
地方分派というのは、地方で幅を利かせている辺境伯や伯爵たちの総称だ。
ざっくり言えば中央集権化を進めようとする王党派に反対するグループが地方分派で、どちらにもついていないのが中立派。
リンブル王国が未だ小さく王の権力が今よりもまだまだ小さかった頃、地方で幅を利かせてきた豪族たちの末裔の貴族たちと言っていい。
中でも有力な地方分派の上級貴族たちは三人。
ランドル北伯、ニルス西候、ツェペシュ南公だ。
これはそのまま、彼らの領地の方位と爵位を表している。
ソルド殿下が真っ先になんとかしなくてはならないのは、ツェペシュ南公である。
直接の領地を接していないとはいえ、彼の領地はデザントと交信のできる距離にある。
もしリンブルが潰れるとなった時、彼は何事もなかったかのようにリンブルを裏切り、デザント側につくのは間違いない。
実際問題、そうしないと真っ先にデザントの攻撃を受けるようになるのはここだからな。
地方分派のアイシア殿下が既にデザントと通じている可能性が高い以上、ツェペシュ南公もまた彼女同様、既にデザントの手先となっている可能性も十分に考えられる。
けれど殿下の言葉は、俺の想定とは大分異なっていた。
「一応ツェペシュ公爵に関しては、ある程度のコンセンサスが取れている」
「……そうなんですか?」
「南部に関してはアルスノヴァも領地を持っている分、そこを経由して窓口を繋げることができた。ツェペシュ公爵も一方的にデザントにやられかねない状況に不満はあったらしくてな。技術供与や有事の際の出兵を出汁にすれば転がすのはそれほど難しくはなかったよ」
……さいですか。
俺が出した物を早速有効なカードとして使ってくれて何よりです。
いざという時にデザントにやられる可能性がある。
言わば常に喉元に刃を突きつけられている状態だ。
その時に採れる選択肢は二つ。
諦めて刃を立てられた時に唯々諾々と従うか。
相手に立ち向かえるように刃を研ぐか。
どうやらツェペシュ公爵は後者を選んだようだ。
リンブルの人間って、割と気骨がある人が多いよな。
デザントに慣れていると、予想がこんなにもあっさりと外れてしまう。
……でもそれだと、どうして殿下は言い淀んだんだろうか。
一番骨だった部分の交渉が終わり、あとは順風満帆としか思えないが……。
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