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初仕事

 食事に舌鼓を打ち、過不足なく腹を満たし。

 デザートがやってくるまでの間、手すきになった。


 食前から適宜酒を飲んでいるせいで、大分へべれけになってきている。

 これ以上酔ったらまずいし、一旦水をがぶ飲みしておくことにしよう。


「こうやって隊長とお話をしたのは、実はかなり久しぶりな感じがします」

「そうか?」

「ええ、やっぱり普段って元隊長組の方が幅を利かせてるので……」


 ミリィは肩を縮こまらせながらそんなことを言う。

 別にドレスコードがある店ではないのだが、今の彼女は割とシックなドレス姿だ。


 一度解散してから再度集合したら、この格好に変わっていた。

 女性というのは、そこまで細かく服を着替えなくちゃいけない規則でもあるんだろうか。


 幅を利かせてる、か……。


 たしかにそもそも俺たちが大隊として動いていた頃は、俺は自分の直属の部下であるエンヴィーやエルルたちに命令を出せばそれでよかった。


 一応大隊長としてコミュニケーションなんかに齟齬が起きないよう、最低限の会話はしてきたつもりだったが……たしかに全体で見ると、いわゆる平隊員と話す機会はかなり少なかったかもしれない。


 今の俺たちはもう、第三十五辺境大隊ではない。

 冒険者クラン『辺境サンゴ』のクランリーダーとしては、たしかに態度を変えなくちゃいけないかもな。


 軍隊よりずっと、風通しのいい組織を作らなくちゃいけない。


 今後のことを考えれば、命令に即応するために組織を硬直化させるより、下の意見をきちんと吸い上げられる形にした方がいいに決まってるからな。


 そのために、俺にできること、そうだな……まずは呼び方あたりから変えてみるか。


「ミリィ」

「はい、なんでしょう」

「俺はもう隊長じゃないし、今後はアルノードさんと呼んでくれないか? カオル、ヨハンナ、セーヴェの三人も一緒に」

「「「ええっ!?」」」


 今後は堅苦しいのはなしだ。


 ――うん、決めた。

 今日から俺は頼れる厳格な大隊長をやめ、頼れるクランリーダーであるアルノードさんを目指すことにしよう。


「同じクランのリーダーに様付けはおかしいだろう」

「まあ、それはたしかに?」

「だがある程度の上下関係は必要だろ? だからさん付けだ」

「なるほど、道理は通っている……かも?」

「でも隊長をフランクに呼ぶのはさすがに……」


 みな抵抗があったようだが、酒を入れて酔っ払っているかそれほど時間がかからずに俺のことをアルノードさんと呼んでくれるようになった。


 ――というか、あれ?

 みなさま、ちょっと酔っ払いすぎじゃないですか?


 なんだか大分、目がとろんとしてきているような……。


「アルノード……呼び捨てにしちゃ、ダメですか?」

「……いや、ダメだろ、常識的に考えて。俺もしかして、大隊の中でめちゃくちゃ舐められてたのか?」

「いいえぇ、そういうことじゃなくてぇ……」

「あははっ、アルノードさんのいけずぅ!」

「酒だ、もっと酒を持ってこい!」


 どうやら『暁』のみんなは酒乱気味なようで、デザートを食べ終わったときには乱痴気騒ぎが始まりかけていた。


 俺はなんとか彼女たちを落ち着かせ、レストランの人へ謝りながらクランハウスへ向かう羽目になった。


 アルノードさんとしての初仕事が、酔っ払ったクランメンバーの介抱とは……なんともしまらないことである。


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