採取
討伐依頼を終えてもまだ余裕があったので、とりあえず常時受付をしている採取依頼をやることにした。
薬草の茂りやすいのは、森林やその周辺と相場が決まっている。
ざっくり分類すれば、薬草のような魔力を含有する植物は、魔物が出没するところに生えていると言っていいだろう。
「ヨリ草とモギ草の違い、カオルにはわかるか?」
「いえ、全然区別がつきません」
「こっちのヨリ草は葉っぱの裏側に、小さなまだら模様がある。そしてこっちのモギ草は、葉の裏にうっすらと毛が生えている。基本的に薬草は見分けるだけじゃなくて、触ったり舐めたりして見極めなくちゃダメなことも多い」
俺は『暁』のみんなに、薬草取りのレクチャーをしながら進んでいた。
今は俺がいるし、回復魔法の込められた魔道具を使っていればいいが、いつ誰がどうなるかなんて神様にもわからない。
不測の事態が起こったときに薬草の知識を蓄えておくだけで、生存確率は変わってくるはずだ。
もちろんそれが主な原因ではあるが……実は少しだけ、蓄えた冒険者としての知識をひけらかしたいという子供っぽい欲もある。
折角時間を使うのなら、俺が楽しいようにするのが一番だ。
ふふふ、どうだ。
『辺境サンゴ』では薬草ハラスメント、ヤクハラだってしてしまうんだぞ。
「いっつも思うんですけど、薬草ってなんでこんな辺鄙な場所にしか生えないんですかね。果樹園とか畑みたいに、人里で育てれば遠出しなくても済むのに」
「簡単に言えば、薬草自体が人間にとって居住環境がいい場所ではないところを好むせいだな」
魔物が溜まりやすい森林は、純度が低い。
魔力自体は多くあるのだが、それらは人間にとって都合の悪い方に作用してしまう。
だが魔力が多い分、魔素溜まり――つまりは瘴気のような純度の低い魔力が溜まるような場所が生まれやすい。
薬草とはそれ自体で薬効を発揮させたり、もしくは他の薬効を促進させるような植物の総称だ。
それ自体、葉や茎の中に微弱ながらも魔力を含有しており、そこに含まれている魔力量が多ければ多いだけ薬効が上がりやすい。
そしてそこに、魔力の純度は関係ない。
つまりどんなものであれ、魔力が大量にある場所の方が、薬草は育ちやすいのだ。
そして魔力自体は、俺たち人間の生活圏よりも、魔物の生活圏の方が多い。
薬草からしたら、ある魔力が人間にとって都合がいいかどうかというのは関係がないわけだな。
「へえ、色々あるんですねぇ」
「でも元々人が住みづらいところに生える薬草をそれでも持っていって薬にする人間って、たくましいというかなんというか……」
「魔物の素材だって、放置しておけば皮革にはならずに腐っていく。とりあえず使えるものは使うのが人のやり方さ」
俺はうんちくをべらべらと喋って気持ちよくなりながら、採取を終えた。
空を見れば既に夕陽が顔を出し始めている。
もうこんなに時間が経ったのか……。
自分の知っていることを他人に話すのって、どうしてこんなに楽しいんだろうな。
俺はふと、今の自分がやっていることが前にうざいと思っていた先輩魔導師がやっていたのと同じであることに気付いた。
自分が興味のない話を延々と話される退屈さは、想像を絶するものがある。
ごめん、『暁』のみんな。
何かしてほしいことがあるなら、俺にできることならなんでもするから。
そう謝ると、それなら今日はどこかでご飯でも一緒に食べませんかと誘われる。
なんだ、そんなものでいいのか。
お腹も減ってたし、ちょうどいいな。
とりあえずガードナーで三番目くらいに高価なレストランに、飯を食べにいくことにした。
これで埋め合わせができるといいんだが……。
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