やらないこと
ガードナーにやって来ている面子の数は、大体五百人を超えている。
これだけの大所帯になると、さすがに一つの屋敷に収めるというわけにはいかない。
というわけで俺たちは、ソルド殿下の口利きによりいくつかの屋敷を格安で貸してもらい、いくつかのグループに分かれて生活をすることになっていた。
ちなみに色々と見た結果、折角のご縁だからということでエニタイム不動産の出していた物件を利用させてもらうことにした。
あのやり手そうだけど実は優しい不動産のお姉さんの名前が、バーデラさんというらしい。 バーデラさんは俺が律儀にエニタイム不動産を選んでくれたことに、いたく喜んでくれていた。
なんでも英雄アルノードも家を借りているという事実が、とてつもない量の契約につながるらしい。
……まあ、それで彼女の評価が上がるのなら俺がとやかくは言うまい。
俺の名前程度、好きに使ってくれればいいさ。
とりあえず起きて、食堂へと向かう。
当たり前だが、昨日の今日で使用人の類も雇っていないので、物凄い豪華な料理が並んでいるというわけではない。
ないはずなんだが……なんだかいい匂いがするな?
どんどん強くなっていく匂いの正体は、食堂へたどりつくとすぐに判明した。
誰かが料理を作っていたんだろう。
この屋敷にいる『辺境サンゴ』の面々は合わせて三十人ほどだが、皆俺が来る前から既に食事を始めていた。
長机の真ん中あたりには寸胴が置いてあって、食べ終えたものはすぐにおかわりをよそっている。
よくみれば料理も大皿のものばかりで、めいめいで食べる分を取るビュッフェスタイルのようだ。
スープと肉料理と生野菜がどかっと並んでいる。
いいな、小皿でちまちま出てくるよりこういうやつの方が、俺も好きだぞ。
俺は既に酔い潰れて眠っているライライをそっと部屋の隅で寝かせてやってから、空いている椅子の一つに座らせてもらうことにした。
みんな好き勝手騒いでいるので、俺は適当に料理だけよそって端の方で食べさせてもらうことにする。
濃くて身体に悪い味付けだ……控えめにいって最高だな。
ちなみに俺は貧乏舌と長い防衛任務のための生活のせいで、かなり味覚がバカになってきている。
味なんか濃ければ濃いだけいいという、兵士タイプの馬鹿舌になりつつある。
騒いでいるといっても、比較的みんなお行儀はいい。
がちゃがちゃと食器を打ち鳴らしたりはしているが、テーブルがひっくり返ったり、料理が飛び散ったりしているなんてことはない。
喧嘩をする時も基本的には外でやるように言っているから、中の調度品が壊れたりする心配はそれほどない。
それこそ、ライライが酔っ払って力加減をミスって食器をおシャカにするくらいだ。
適当に料理を腹の中に入れていると、スススと近付いてくる影が。
誰かと思えばエルルだった。
そういえば、この料理の味付けは……少し覚えがあるような。
「これ、エルルが作ったのか?」
「――はいっ! 何人かに手伝ってもらいはしましたが、基本的には私が作りました」
当てられて少しだけホッとしながら、再度料理を口に運ぶ。
食べ終えると、エルルはなんでもないような様子で食器を手に持って立とうとする。
「いや、わざわざそんなことしてもらわなくても、言ってくれれば自分で持っていくぞ」
「いいんです、私が好きでやってることですから」
「……そうか?」
「はい、そうです」
有無を言わさぬ様子と凄みのある笑みに何も言えなくなった俺は、彼女に食器の片付けをしてもらった。
食事を終えると……やらなければならないことがないため、手持ち無沙汰になる。
まだ朝だが……ここまですることがないと、逆に不安になってくる。
どうするか……適当に『辺境サンゴ』内のグループの活動に混ぜてもらおうかな。
休暇をもらったんだから、普段やらないことをやってみたいしな。
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