ゆっくり
「うーん、なんだかずいぶんと久しぶりな気がするな……」
俺は『辺境サンゴ』の面々を引き連れ、一路ガードナーへと向かっていた。
未だ視線の先には踏みしめられた道しかないが、そろそろ城壁が見えてくる頃だろう。
以前とは来ている方向も違えば、一緒に行動している仲間の数も違う。
心境も違うし、精神的な余裕も違う。
まだ一年は経っていないはずだが……あれよあれよという間に、こんなことになってしまっていた。
俺もみんなも、更に言えばこの国も。
だれもかれもが、がらりと変わったよな。
ふわぁとあくびをすると、隣に居るエルルがハンカチを取り出す。
そして口許をそっと優しく拭いてくれた。
どうやらよだれがついていたようだ。
「ありがとう」
「いえいえ! ねえ、隊長」
「なんだ?」
「ガードナーで別荘暮らしですよ! 念願のスローライフです!」
「念願の、かぁ……たしかにそう言われればそうだな」
そもそも俺はなんのためにあんなに頑張っていたのか。
わりとぼーっとする時間ができるようになったおかげで、改めて考えるだけの余裕ができた。
最初はみんなの――『辺境サンゴ』の居場所を作るためだった。
デザントでは二等臣民であり、デザント出身の兵より安い給料で、長期間、しかも前線で働かされ続けてきた彼女たちが、新天地で上手くやることができるように。
俺は元『七師』の肩書きなりなんなりを使い、彼女たちがまたいいように利用されることがないよう、サポートをする予定だった。
だが今こうして過去を振り返ってみると……まだエルルたちと合流する前の冒険者生活をしていたところまでは万全だった気がするんだが。
気付けばサクラと出会い、オウカを助け、アルスノヴァ侯爵と面識を持ち、王党派としてリンブルの派閥争いの中に組み込まれ……ここまで来てしまった。
新天地でやったにしては、上手くいっている方……だとは思う。
食うに困っているようなやつも、仕事にあぶれてどこかで傭兵を始めたようなやつもいない。
ギャンブルで身を持ち崩しかけた奴は数人居たが、別に金には困ってないから俺が代わりに返して、新たな貸主になれば問題は解決したし。
こってりしぼって給料からその分を天引きすれば、みんな二度とバカなことはしなくなったから、これも特に問題はない。
冷静に考えれば、たしかに現段階で俺がそこまで頑張る理由はないんだよな。
……うん、俺ってば上手くやっているような気がする。
あんまり世渡りが上手くない俺にしては、よくやった方じゃないだろうか。
たまには自分を褒めてあげてもいいのかもしれない。
だとしたらこの降って湧いたような休暇も……ありがたく使わせてもらわないと、だな。
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